桜蘂。
とても寒い。その上、雨も降っている。
この近辺の桜木、何日か前には鈍い朱色の桜蘂が多く目についたが、それでも、咲き残っている花もあちこちに見られた。しかし、このところの冷たい雨では、名残の花もあらかた散ってしまったろう。その間、風も吹いたし。
”桜蘂降る”には、まだ間があろうが、何日か前の桜木の様子である。
あちこちに、名残の花は見られるが、花弁が落ち、取り残された桜蘂も、桜花に劣らず、風情がある。
この桜木は、まだ名残の花とは言えないくらいに残花があるな。
白味がかった染井吉野の花をバックに、赤味がかったその蘂は、これも花、といった趣がある。
花が散り、蘂のみ残る桜木は、どこかボウと灯が灯ったような感じを受ける。
艶やかではあるが、妖しさも合わせ持つ桜花に較べ、侘びしくはあるが、温もりもある。
間もなくであろう”桜蘂降る”の句、鍵和田釉子監修の『花の歳時記 春』(講談社刊)から、幾つか引く。
さくらしべ降る歳月の上にかな 草間時彦
桜蘂降る父の世の端が見え 富田正吉
桜蘂降る喪ごころに似たるかな 雨宮きぬよ
悔恨やわが影に降る桜蘂 柴田雅子
桜蘂踏まねば神に近づけず 猪俣千代子
”桜蘂降る”となると、いずれの句も深いな。考えさせられる句ばかりだ。