東博の桜。

いつごろから謳っているのか知らないが、東博が、「大人の花見の聖地 東京国立博物館」、と称している。
「博物館でお花見を 大人のお花見 楽しめます」、と謳っている。4月11日までの、期間限定であるが。
日本ギャラリー「桜めぐり」、と銘打ち、本館の各室で、東博が持つ収蔵品の中から、桜をモチーフにした素晴らしい作品を並べている。絵画、浮世絵、衣装、焼き物、工芸品、の数々を。今日、行った。
中でも、今回の白眉は、狩野長信の、六曲一双の屏風絵だ。残念ながら、右隻の第三扇と第四扇は、関東大震災で失われたそうだが、花の季節に相応しい、匂い立つような情景が描き出されており、素晴らしい。東博のHPから複写する。

狩野長信筆の、国宝「花下遊楽図屏風」。これは、一双の内の、左隻。
狩野長信は、安土桃山から江戸初期にかけての、狩野派の総帥・狩野永徳(ひと月ほど前に触れた、長谷川等伯が、対抗心を燃やした男だ)の弟である。
背景に、狩野派が多用した金碧を用いず、水墨画の技法を使っており、落ちついた感じである。それだけに、満開の桜の下、宴に興じる人々が、鮮やかに浮き出ている。

こちらは、右隻。
モノクロで復元されているのは、関東大震災で失われたという、第三扇と第四扇部分。それにしても、端の部分の、第一扇とか第六扇が、失われたというのなら、分かるような気もするが、どうして中央部分が失われたのか、不思議だ。

桜木が描かれている、左隻の、第五扇と第六扇。
花も花なら、人物も生き生きと描かれているな。

こちらは、右隻の、第一扇と第二扇。
400年前の桜木、400年前の、華やかなお花見だ。
しかし、何ともいえぬ、美しさ、きれいな色づかいだな。

ついでに、小さくなるが、あと幾つか、東博「桜めぐり」の名品を、東博のHPから引いておこう。
これは、勝川春潮の浮世絵、「飛鳥山花見」。
飛鳥山は、今でも、東京の花見の名所のひとつだが、元々は、徳川8代将軍の吉宗が、桜を植えさせたことから始まったそうだ。吉宗自身も、花見の宴を張ったとのことだが、花を愛でる徳川期の女性、みな晴れ着を着ている。今日、上野の山で見た花見の人たち、晴れ着を着ている人など、一人もいなかったが。

「桜花に鷹」、葛飾北斎の錦絵。
桜に鷹、正月の「おめでた掛け」、として作られたらしい、ということだ。
それにしてもこの構図、さすが北斎、というしかない。

江戸後期の京焼きの名工、仁阿弥道八の手になる、「色絵桜樹図透鉢」。
今や盛りの満開の桜が、白泥と赤彩で、鉢の内外に描かれている。
さらに、この鉢、その上部に、ぐるりと透かしが入っている。外側から見ると、透かしを通して内側に描かれた桜花が見える。遠近、奥行きを表現しているんだ。
桜木、ましてや、満開の桜は、奥行きが豊かだものな。手が込んでいる。
東博のお花見、実は、館内ばかりじゃなく、この時季、本館裏の庭園開放もしており、その様子もと思ったが、眠くなった。
そう多くはないが、10種ばかりの桜木がある。
その模様は、後日、日を改めて、としよう。