目黒の桜。

夕刻前、中目黒の駅前で、古くからの友人と待ち合わせ、目黒川の桜を見に行く。
目黒は、秋刀魚ばかりでなく、桜でも著名な所である。
このすぐ近くに住む友・Sが、案内役。このところの寒さで、まだ少し早いかな、と思っていたが、どうしてどうして、7〜8分ではあろうが、爛漫といってもいい状況である。夕刻前とはいっても、ウィークデーの日中、人はそう多くはなかったが。
開花状況、こういうもの。

目黒川の両岸に、ソメイヨシノを主に、約800本の桜が続いているそうだ。
数十メートルほど毎に、橋が掛っており、その橋の上から眺める、というのが、目黒流だ。

途中に、こういう碑があった。

目黒に長く住まいする、案内役のSによると、ここの桜は、30年ぐらいのものが多いんじゃないかな、と言っていたが、この説明書きによれば、それより古い。昭和初期に植えられたものを、移植したということだから、6〜70年か、あるいは、もう少し前の桜木、ということになる。
いや、みな立派な桜木である。

目黒の桜、今日は、虚子が詠む、こういう状態であった。
     咲き満ちてこぼるる花もなかりけり   高浜虚子

     水の上に花ひろびろと一枝かな     高野素十

路上喫煙禁止区域、などというボードと共に、目黒区の良い子が描いた、「ゴミをもちかえろう」、というポスターが掛っていた。

どの橋の上からでも、こういう光景が眺められる。

     花と花つなぐ橋なり渡りけり      平井千詠

     さまざまの事思ひ出す桜かな      芭蕉
この後、Sの家に行き、古くからの仲間10人ばかりで酒盛りをする。

何時間かの酒盛りの後、帰途、暗くなった目黒川に。今度は、夜桜だ。
雪洞には、灯が灯り、日中とは、ガラリと違った感じだ。夜桜って、どこか怖ろしげだな。何か、冥界に引きずり込まれるような感じがあるな。
     夜桜の深みに入りて行方知れず     斎藤慎爾

明るい内には気づかなかったが、こういう人も立っていた。

中目黒駅へ折れる角に、灯りが煌々と灯る建物があった。3階建ての建物。その右手には、暗闇の中に、ボウと浮かぶ桜木。その前には、2人連れ、3人連れの男もいる。
ふと、斉藤真一の絵を思った。斉藤の「明治吉原再見」の絵を。後ろのビルさえなければ、そう思える。明治の吉原、仲の町の遊郭の情景を。
夜桜の持つえも言えぬ情念が、そう思わせるのだな。