「日本遺産」補遺(9) (東京大学総合研究博物館)。

なんのかのと言っても、東大というのは、凄い学校なんだ。
なにしろ、加賀百万石、前田家の上屋敷の跡地に造られた学校だから、広い。次に、赤門がある。朱塗りの門は、将軍家の娘を嫁にもらう家にしか、建てることが、許されなかったんだから。さらに、江戸随一の名園と謳われた名残りが漂う学内には、三四郎池の名(正式名は、育徳園心字池)で知られる大きな池もあるし、大きな木も多くある。白い実験着を着て、ガタピシの自転車に乗った男が、走っていたりする。
ナニィ、広ければいいのか。赤門があればいいのか。池やデカい木があればいいのか。東大の凄さは、その中身じゃないのか、と言われれば、そうであろう。しかし、広さや赤門や池や大木も、大事な要素。それプラスあらゆる分野の学問、というところが、東大の凄いところだ。なんでもありの学校なんだ。
私は、東大に入ったことは、もちろん、ない。だが、東大の構内に入ったことは、何度か、ある。赤門の右手ズッと奥の方に、「東京大学総合研究博物館」という、何とも奇妙な博物館があるからだ。
昔の概念でいう、いわゆる”博物学”の範疇の不思議なものが並んでいる。石だとか、植物の標本だとか、骸骨だとか、解剖模型だとか、調査ノートだとか、その他、もろもろのヘンなものが陳列されている。常設展ばかりでなく、年に何度か、企画展も行われている。現在の先端分野のものも含め。入場は、無料である。が、来ている人は少ない。
その東大総合研究博物館の教授である西野嘉章も、今回の「日本遺産」に答えている。
<そもそも「和」などと呼べるものが存在するのか>ということを。<有形無形を問わず国内の文化遺産の多くは、その根源を探ると朝鮮半島や大陸文化に行き着く>、と記し、東大のコレクション(西野は、”東京帝国大学の学術遺産”と記しているが)を5つ挙げている。
<文身(刺青)標本コレクション>、<古貨幣コレクション>、<ヒロシマ・ナガサキ被爆標本コレクション 長崎・浦上天主堂柱頭断片他>、<長尾鶏(特別天然記念物指定)>、<和田維四郎鉱物コレクション>、の5つ。
トップに挙げられた、<文身(刺青)標本>は、凄い。背中はもちろん、胸、腹、両手、両足、つまり、頭を除き、全身に彫られた総身彫りの文身、つまり、刺青が、額縁に入っている。武者絵や龍、緋牡丹などの絵柄が彫られた総身彫りの文身(刺青)が。普段は、医学部の標本室にあるようだが、そこには、額縁入りのものも含め、計57点もの文身標本があるそうだ。これこそ、東大ならではのコレクションだな。
<古貨幣のコレクション>は、総数なんと12000点以上、日銀でもかなわないそうだ。大学院の経済研究科においてあるそうだ。
そして、<広島・長崎の被爆標本>は、歴史の貴重な証人として、総合研究博物館にある。
やはり、総合研究博物館にある、<長尾鶏>の剥製は、尾長4.7メートルで、現存標本では国内第一級、とのこと。
<鉱物コレクション>は、和田維四郎という人が、開成学校時代から東京帝国大学時代にかけて収集した、2万点超の日本産鉱物標本のコレクションで、時価100億円をゆうに超えるものだそうだ。
それにしても、総合研究博物館教授の西野、学術性、稀少性、偏奇性、歴史性、資源性において傑出しているものとして、この5つを「日本遺産」に選んだ、と書いているが、ウーン、というしかない。
しかし、東大が、何でもありの、凄い大学である、ということだけは、よく解かる。
また、行こう。
東大の構内を歩くのは、イチョウの葉が降り積もる頃が、一番いいのだが。