眼福。

晴れ。
うっかりしていた。通常の企画展と異なり、期間が短かった。慌てて上野の東博へ行く。
「皇室の名宝」展、第1期は終わったが、第2期の展覧観る。
今日の午前中には、天皇、皇后両陛下も来られたそうだが、皇室の所蔵とはいえ、普段はご覧になることはないんだ、と改めて思う。我々下々の、がらくたコレクションとは、まったく違うんだから、当たり前だな。
第1期は、若冲の「動植綵絵」が目玉だったが、今回は、逸した。しかし、これは全30幅、三の丸尚蔵館での特別展示はじめ、今までに何度か観ているので、まあ、よしとする。
第2期は、正倉院の宝物と書・絵巻の名品。素晴らしかった。特に、正倉院の宝物、奈良時代だから、千2〜3百年前のものとは思えぬほど美しい。螺鈿紫檀阮咸、4弦の楽器だが、その胴に施された夜光貝、タイマイの甲羅、メノウ、などを使った装飾の美しさといったらない。また、黄金瑠璃鈿背十二稜鏡の七宝の鮮やかな緑。毎年の点検の賜物だろう。
さらに、正倉院宝物ではないが、やはり、御物である聖徳太子の筆になる法華義蔬の力強い墨の色。これは、聖徳太子だから、飛鳥時代、7世紀のもの。十七条の憲法の元となった書きものだそうだ。
私は、毎年秋に奈良で催される正倉院展には、残念ながら、行ったことがない。それだからか、頻りに、眼福という言葉が浮かんできた。
印刷物では、よく見知っている、蒙古襲来絵詞も、おもしろかった。13世紀、鎌倉時代の元寇の絵だ。フビライの蒙古軍、弓引き絞り、色彩鮮やかで、生き生きとしている。
あと1点、とても興味深いものがあった。西行の書状だ。平安時代、12世紀、といっても、西行が死ぬ前年か2、3年前、というから、12世紀末のもの。西行から藤原俊成に宛てた手紙である。
西行の歌集について、西行から、俊成と定家に、判を請う手紙を出していたのだが、俊成からは返事が来たが、定家からは何も言ってこない。貴方からなんとかしてくれぬか、という催促状らしい。らしい、というのも変だが、図録を立ち読みした中に、そうあったような気がする。
実は、最近は、よほどの物でない限り、図録をほとんど買わない。以前に較べ高くなったし、実は、置き場所が無くなってきた。そのかわり、以前はバカにして借りなかった音声ガイドは、借りるようになった。混雑して説明文が読めない場合、無理して前へ出ず、後ろの方で、ガイドを聞いている。年をとり、アッサリしてきた、ということでもあろう。
今回のナレーターは、元NHKの加賀美幸子さん。皇室の云々というケースでは、まさにピタリの話ぶりだった。その声音も。
横道に逸れたが、西行の書状、内容もおもしろいが、その書きぶりもすごい。散らし書きなんだ。
初めは、真ん中あたりから書き始めているが、その内、右上の余白に飛び、さらに、左上の余白に、次には、紙を90度廻し、下の余白に書き、また、その右上に書き、としている。散らしているんだ。文章を。
字そのものは、私などには、とても読めないが、その文字の大小、さらに、縦に、横に、斜めに、と変化に富んでいる。その構成の妙なること、書状ではあるが、素晴らしい配置。近代絵画のコンポジション顔負け、という見事なものだった。
企画展時の金曜日、8時まで博物館にいた。上野で暫く休憩し、帰途、久しぶりで居酒屋で飲み、日をまたいでの帰宅となったので、眠くもなり、疲れてもきた。
この後、付け足したいことがあったのだが、それは、またとする。
眼福の1日、これで終わり。