月見草。

晴れ。
「王、長嶋が、ヒマワリならば、俺は、野に咲くツキミソウ」、の名言を吐いた野村が、その言葉を自ら否定しようとしている、ように見える。
何故、退任しないのか、不思議に思う。野村の辞書に、”美学”という言葉はないのかな、と思う。
開幕前の専門家の予想でも、当然のことながら、Bクラス間違いなし、の弱小球団・楽天イーグルズが、Aクラスどころか、パリーグ2位になってしまった。5年前、球団設立の年は、あわや100敗目前までいった球団、その後もBクラスの常連。
名の知られたスター選手は、岩隈と田中のマーくんぐらい、野球選手としてはロートルの40歳でホームランを量産した山崎も、いわば他球団をお払い箱になった選手。
大半が、無名選手や訳あり選手ばかりの楽天が、Aクラスどころか、2位になってしまったのは、野村の腕に違いない。だが、やはり、2位になったのではなく、2位になってしまった、のである。そのことは、野村自身が、一番解かっている、と思う。野村の言葉にこういう言葉もあるんだから。「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」、との。
客観的に言って、あの戦力での2位は、監督の力量にもよろうが、不思議な勝ちがあったからでもあるだろう。だが・・・。
球団は、1年契約の約束通りお辞めいただく、と言い、野村は、2位になって、CSにも進出した監督を解任するなんていうことは、野球の世界の常識にはない、と言う。74歳の高齢云々というが、それより、実績だ、と。
しかし、私は、野村の心中推し量り、どうも野村は辞めたがってるな、と思えてならない。球団とガタガタやってるが、来年も2位どころか、Aクラスの保障もない。本心は、今季限りで監督は辞めるが、CSをなんとか勝ちあがり、日本シリーズも制し、日本一になって、身を引く。いや、身を引かされた、という状況を作りたいんだと思う。なんとしても。
そうじゃなければ、辻褄があわない。己の言葉の。月見草を通す。
日本海側の丹後に生れ、甲子園に出るなど縁遠く、契約金などないテスト生として南海に入団しながら、日本球界を代表する大打者となり、数々の記録を打ち立て、監督としても傑出したものを発揮した野村、最後の勝負に出ている、ように思える。
小指の先までスター性を持つ長嶋や、奥ゆかしい王と異なり、野村はやはり、丹後の山猿。夜、野に咲く月見草に徹すればいい、と思っている。
野村も、そう思っていればいいのだが、と人ごとながら、考える。