未だ及ばず。

曇り。
秋場所10日目、横綱に挑戦した二人、鶴竜も稀勢の里も、共に番狂わせはならなかった。
割を崩してまで、白鵬とあてられた鶴竜は、惜しかった。
今まで7戦して全敗、一度も勝っていない。しかし、じりじりと力をつけてきた鶴竜、今場所はやるかもしれない、と思っていた。
立ち合いは、鶴竜の方が良かった。頭であたり、左で白鵬の右をおっつけ、前へ出た。そのまま土俵際まで押しこみ、こらえる白鵬をいなした。白鵬は、踏鞴を踏んで向正面土俵際まで飛んだ。一瞬、勝負あったか、と思った。が、土俵際で残った白鵬は、瞬時のとったりで鶴竜を下した。すばらしい反射神経が生んだ技だった。
鶴竜は、今場所も白鵬に勝てなかった。しかし、鶴竜は、勝負には負けたが、いい相撲を取った。未だ及ばず、ではあるが、そのうちに勝てる。
鶴竜は、地味な力士である。185センチ、140キロの体も、今の幕内力士の中では小柄の方である。土俵上での派手なパフォーマンスもない。顔つきも平凡、その辺どこにでもいるお兄さん、という顔つきである。何より、勝負師、といった気迫を感じない。しかし、その相撲は正統派、何より、立ち合いがすばらしい。けれんがない。強くなる相撲を取る、と私は思っている。
同じモンゴル出身の白鵬とは、年も同じで24歳。初土俵は白鵬より半年ほど遅く、新入幕は2年以上遅れ、その後もスピード出世で横綱にまで駆け上がった白鵬には、大きく水をあけられているが、じわじわとその差を縮めている。
小結、関脇を一場所ずつ務めているが、今場所は西前頭3枚目、今日まで7勝3敗、今場所10勝をあげれば、来場所は三役へ返り咲けるだろう。そして、三役へ定着、大関をうかがう力士となるだろう、と私は考えている。
かたや、こちらは大関候補と言われて久しい稀勢の里、彼も横綱、朝青龍を食うことはできなかった。
完敗だ。朝青龍に張り差しで左四つになられ、右上手を取られ、左差しのかいなを返され、そのまま寄り切られた。朝青龍、今場所一番の強さを感じさせる相撲ではないかな。稀勢の里は、為すすべもなく敗れた。彼もまた、未だ及ばずだった。
立ち合い負けというよりも、気合い負け、気迫負けだ。稀勢の里は、気迫を表に出す力士、最後の塩に戻った時、自らの頬をバチンバチンと叩き、気合いを入れた。目の下から頬にかけてが朱に染まった。しかし、それも完全に朝青龍の気迫に、あのチンギス・ハーンに似た、細いが鋭い目に圧倒されていた。威圧されていた。
稀勢の里は、まだ23歳。188センチ、167キロ、と体格にも恵まれている。朝青龍には敵わぬが、日本人力士の中では気迫もある。三役には定着しつつあるが、そこからの一歩が足りない。コンスタントに二桁の星があげられない。
今場所もこれで5勝5敗、勝ち越しはするだろうが、それでは、不満だ。あと一歩の踏ん張り、いっそうの奮闘が必要だ。
魁皇、千代大海、の二人に頑張れ、というのは酷である。琴光喜も大関の体面は保っているが、年齢からいっても、それ以上は難しかろう。ということは、近い将来、横綱、大関は、全て外国人ということになる。外国人、嫌いではないし、実力の世界、それで良し、とも思うが、やはり、国技・相撲、横綱、大関に、日本人力士が一人もいない、という番付けは、やはり寂しい。
明日は、この二人、鶴竜と稀勢の里の取り組みが組まれている。楽しみだ。