アラビアの道 サウジアラビア王国の至宝展。

今月7日の「流山子雑録」で、アユタヤのワット・マハタートのことを記した。ワット・マハタートの仏たちは、ミャンマー軍によってすべて首を切り落とされている、と。人間は残酷、残虐なものだ、と。
その折り、その日トルコ政府が明らかにしたニュースを合わせ記した。今月2日にイスタンブールのサウジアラビア総領事館に入ったサウジの反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏が殺害され切り刻んだ遺体は既に運び出された、との。ワット・マハタートの仏さまと同じである、と思った。生きたまま斬首した、との報道もあった。アップルウォッチでその状況が外へ飛ばされていた、とも言う。
サウジからプライベートジェットでイスタンブールに飛んだ15人の暗殺団のメンバーも、ほぼ割れている。しかし、サウジは頑として白を切っていた。暗殺の黒幕は、今、サウジの全権を握るムハンマド皇太子である、ということだけは何としても避けたいが故。
しかし、トルコ政府のネチネチとした情報リークや、欧米諸国の圧力に耐えきらなくなったと見える。
今日ついに、ジャマル・カショギはイスタンブールのサウジ総領事館で喧嘩になって死んだ、と伝えた。殴り合いになって死んだ、と。殴り合いになって死んだ、計画的ではない、事故で死んだ、と。こんな子供だまし、誰が信じるのか。さらに・・・
容疑者は隠蔽工作を図った。容疑者18人を逮捕した。情報機関の副長官や王室顧問ら高官5人が解任された。が、王族や皇太子についての言及はない。これで逃げ切れると考えてのシナリオであろう。
しかし、これでよし、という人もいる。
まずはドナルド・トランプである。「サウジの発表は信頼に値する」、と言っている。トランプ、何とかこれで幕引きを図りたい。英仏独のヨーロッパ3国は煩いし、何よりトルコのエルドアンとは落としどころを探らねばならないが。いずれにしろトランプ、エルドアンに借りを作ることになるであろう。
ところで、中東にはよく知られた二つの電波メディアがある。
UAE(アラブ首長国連邦)のアルアラビーアとカタールのアルジャジーラである。1時間ほど前、両者のウェブサイトを見てみた。両者共、サウジの今日の発表を伝えている。イスタンブールのサウジ総領事館でのカショギの死を。前者は「カショギ事案」という表現で、後者は「カショギ殺害」という表現で。
当然のことながら、サウジの影響を受けているアルアラビーアとサウジと断交しているカタールのアルジャジーラの立ち位置は異なる。
アルアラビーアのつい先ほどのトップ記事は、「UAE、バーレーン、エジプトは、カショギ事案に関するサウジ国王の言明を称賛する」、というもの。トランプの発言と似たようなものである。ごちゃごちゃ言わずに、これで幕引きにしよう、というもの。
対するアルジャジーラには驚いた。こういう柱があったからである。
「サウジ政権は、イスラムを代表しない」、という見出しが立っている。これには驚いた。メッカとメディナというイスラムの二大聖地を有するサウジアラビアは、その立ち位置はどうあれイスラムの中心、象徴であると言えるからである。
アルジャジーラも「サウジアラビア」とは言っておらず、「サウジ政権」と注意深く言っている。今のサウジの政権なんだ。特に、サウジのほぼ全権を握っている33歳と若いムハンマド皇太子が問題である、と暗に臭わせている。
父親のサルマン国王は建国の父・アブドゥルアジーズ国王の25番目の男子(女子の数は不明。というより女の子はカウントされず、記録にも残されていないそうだ)である。ムハンマド皇太子はその直系の男子である。つまりアラビア半島を統一した英雄であるアブドゥルアジーズ国王の直系の孫にあたる。
その若い孫、四方八方権力を振う。先般は孫正義と10兆円にのぼる規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を立ち上げた。世界中のこれはという企業へ投資するようだ。孫正義も恐いものなしの男だが、サウジの皇太子もそうである模様。
しかし、今度ばかりはその行ない、少し度合いを外してしまったようだ。
数日後、23日からムハンマド皇太子の主導で「砂漠のダボス会議」と称せられる「未来投資イニシアチブ」が開かれる。が、欧米の政府高官や巨大企業トップはそれへの出席を見合わせている。皆さま、サウジと関わるのはヤバイ、と感じているらしい。
が、日本の企業や銀行トップはまだ態度を鮮明にしていない。だらしない。欧米のメガバンクが引いたら、そこにつけこもうなんてみみっちいことを考えているやにも見える。
この一両日の最大の見ものは、孫正義があと2、3日後、サウジへ飛ぶかどうかであろう。これは見ものである。


ところでこの春先、「アラビアの道 サウジアラビア王国の至宝展」という素晴らしい展覧会が開かれた。
アラビアであれ、サウジアラビアであれ、イスラムであれ、アラブの美術展はとても珍しい。

東博、表慶館で催された。

3月中旬までの会期が5月中旬まで、2か月延長された。評判を呼んでいた。

中へ入る。
正面には人形石柱。砂岩。アラビア半島、先史時代紀元前3500年から2500年ぐらいのもの。先史時代からのアラビア半島を巡る旅である。

アラビア半島の地図。
茶色い線は香料の道。緑の線は巡礼の道である。
マディーナ(メディーナ)、マッカ(メッカ)の二大聖地。
半島の中ほどにはサウジの首都・リヤドがある。カショギ暗殺の命を受け飛び立ち、その日の内に舞い戻ったリヤドである。

サウジアラビア王国の至宝、日本初公開なんだ。



イスタンブールでのジャマル・カショギ暗殺に関しての、サウジ政府の発表についての前振りが長くなったため、今日はここまでとする。
「アラビアの道 サウジアラビア王国の至宝展」については明日以降に。