アメリカン・ハッスル。

ハッスル(hustle)って、あの「ハッスルハッスル」のハッスルであるが、「詐欺」っていう意味もあるそうだ。これぞアメリカン・ムービー、ハリウッド映画の極み、と言える極上のエンタテインメント。
この春のアカデミー賞の作品賞は勿論、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、その他主な賞にこれでもか、とノミネートされた。
天才詐欺師アーヴィンと、そのビジネスパートナーにして愛人でもあるシドニーの二人、遂に逮捕されるんだ。逮捕したFBI捜査官リッチー、二人に司法取引を持ちかける。おとり捜査に協力すれば、自由の身にしよう、と。カジノの利権に群がる政治家とマフィアを罠にはめる、という危険極まりない作戦だ。人がいいが汚職市長のカーマイン、天才詐欺師アーヴィンの自由奔放な妻ロザリンも物語をかき回わす。
1970年代後半に実際に起こった汚職スキャンダルに基づいたもの。まさかまさかの実話なんだ。

『アメリカン・ハッスル』、超個性的な面々が登場する。
「奴らは生き抜くためにウソをつく」、という連中である。
真ん中は、天才詐欺師アーヴィン、その左は、彼のビジネスパートナーにして愛人でもあるシドニー、左端の男は、ちょっとイカれたFBI捜査官リッチー、右端の男は、汚職はしているが人気がある市長カーマイン、その左は、アーヴィンの妻ロザリン、何と言うか常識など通じない女。
皆さんバブリーな服装で決めている。ヘアスタイルも見ものである。
アーヴィンは薄くなった髪を一九分け、リッチーはパンチパーマ、カーマインはリーゼント。女性二人の髪型も、バブリーでグラマラスなもの。

監督は、デヴィッド・O・ラッセル。
昨年の『世界にひとつのプレイブック』、その前年の『ザ・ファイター』、面白く凄い映画であった。そのデヴィッド・O・ラッセル、今度は、なんて面白い、という作品を見せてくれた。
『世界にひとつのプレイブック』のジェニファー・ローレンスとブラッドリー・クーパー、『ザ・ファイター』のクリスチャン・ベイルとエイミー・アダムスを持ってきた。

中央は、アーヴィンに扮したクリスチャン・ベイル、その左は、シドニー役のエイミー・アダムス、左端は、リッチー役のブラッドリー・クーパー、右端の男は、カーマインに扮したジェレミー・レナー。いずれの役者も実年齢40前後、今、脂の乗りきった実力派ぞろい。
その中へ、右から二人目、まだ20代前半のジェニファー・ローレンスが割りこむ。
ジェニファー・ローレンス、昨年度のアカデミー賞主演女優賞を『世界にひとつのプレイブック』で受賞した。その折りにも記したが、何て上手い役者なんだ。キャサリン・ヘップバーン、メリル・ストリープの後を継ぐ女優に違いないが、それにしてもそれにしても、ジェニファー・ローレンス、上手すぎる。このあまりにも上手すぎることが、将来ネックになるのでは、とも考えるほど。

実は、芸達者な5人に加え、オマケというか何というか、ロバート・デ・ニーロも出てくる。マフィアの親分役で。ここには映っていないが。
70歳を超えたロバート・デ・ニーロ、40前後の実力者4人、それにまだ20代前半のジェニファー・ローレンス、我こそはの演技派6人による演技合戦の様相を呈する。これは見もの。

『アメリカン・ハッスル』、今年のアカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、その他多くにノミネートされていた。
が、実は、そのひとつも受賞しなかった。どれひとつとして。
思うに、出来すぎていたんだ。役者の演技が上手すぎたんだ。アカデミー賞、別に演技競争の場ではないんだからって、ハリウッドの良識が働いたんだ。 
それは、正しい判断、と考えるな。