人生の特等席。

暫らく前から、「見落としちゃったのかなー、私」って心配していることがある。「あの人が、この映画のことを書かないわけがないのに」って思いながら。
あの人とは、向井万起男であり、この映画とは、「人生の特等席」のことである。封切られてからひと月は経つ。それに大リーグ好きで有名な向井さんなら、一般公開前の試写会へのお誘いだってあろうものを、と。
それが、朝日の水曜夕刊の花形コラム「大リーグが大好き!」に出てこないんだ。向井万起男が大好きな、大リーグについての事細かな知識競べ、ということもバンバン出てくるのに、だ。私が見落としたのだろう。そうでなきゃ、明日は水曜日。明日の夕刊にポッと出てくるかもしれない。
大リーグのスカウトマンの話である。彼と娘の。その娘と若い男の。それぞれが心にグッとくる。
大リーグの映画は、今年初めにもいい映画があった。「マネーボール」、オークランド・アスレティックスのGM、ビリービーンの物語。貧乏球団のアスレティックスがコンピューターを駆使して戦力増強をはかる、というお話であった。
清武の乱の後、新GMの下、巨人が、村田、杉内、ホールトンと金に暇はつけない大型補強を行ったのとパラレルな時期だったこともあり、貧乏球団のGMの話、とても趣き深く心に響いた映画であった。
この「人生の特等席」は、これもとても趣き深い映画なのだが、今年初めの「マネーボール」とは対極の男が主人公なんだ。視力も落ちた、小便の出も悪くなった、そういうジイさんのスカウトマンの話。クリント・イーストウッドが演じる。

監督は、ロバート・ロレンツ。「マディソン郡の橋」(イーストウッドとメリル・ストリープ、これも良かったな)でイーストウッドの助監督について以来17年間、イーストウッドの下でイーストウッドの映画に携わってきた、という。
「ミスティック・リバー」、「ミリオンダラー・ベイビー」、硫黄島二部作、「グラン・トリノ」、「ヒアアフター」、「J.エドガー」、ここ十数年のイーストウッドの映画には、すべて関わっている。
クリント・イーストウッドは、俳優として関わり、監督はあくまでもロバート・ロレンツである。でも、ついついイーストウッドが演出しているような感にとらわれる。心地いいんだ。予定調和と解っていても、それが心に響くんだ。こういう感じ、クリント・イーストウッドの映画に特有のものなんだ。

クリント・イーストウッド、82歳だ。頬が削げた横顔、何とも言えない。
イーストウッド、4年前の「グラン・トリノ」で俳優は打ち止め、と言っていた。それが4年経ち、俳優としてイーストウッドならではの演技を見せた。
ああ、そうだ。ついでといっちゃ何だが、それにしても、「グラン・トリノ」は凄い映画であったな。3年前、「キネマ旬報」が創刊90周年記念で、「オールタイム・ベスト10」というものを発表した。”オールタイム”だから、映画というものができてからのベスト10、ということ。
そのベスト10に、近年の映画で唯一選ばれたのが、「グラン・トリノ」であった。「グラン・トリノ」凄かった。その中でのイーストウッドも、凄かった。
なお、オールタイム、歴代を通してのベスト10、どのような作品が選ばれているのか、興味のおありのお方は、2009年11月21日のブログをご覧ください。


クリント・イーストウッドが演じる主人公は、アトランタ・ブレーブスのスカウトマン、ガス・ロベルである。昔気質のスカウトだ。パソコンなどは使わない。永年培った経験と目が勝負なのだが、その目が、視力が落ちてきた。でも、キャリア最後の旅、ノースカロライナの高校生を見極めに行く。
頭がいい一人娘は、優秀な弁護士となっている。アメリカでも男社会である弁護士事務所の共同経営者にも、というほどの女。
この後、さまざまなことがある。
ガスという老スカウト、ミッキーというできのいいその娘、以前ガスにスカウトされ大リーグに入ったが、肩を壊し引退、今はボストン・レッドソックスのスカウトをしている若い男・ジョニー。このジョニーとガスの一人娘・ミッキーとの恋。さまざまなことがある。
しかし、私は今日出かけていた。新宿で酒を飲んで、先ほど遅く帰ってきた。で、このブログを打ちながら、また焼酎のお湯割りを飲んでいる。いい加減眠くなった。そういうことで、今日は終わる。
「人生の特等席」、心洗われる映画である、ということだけを記して。