ブリューゲルの動く絵。

静止画である絵を動画にしたらどうなるか。対象としたのは、16世紀フランドル絵画の巨匠・ブリューゲル。デューラーと並ぶ北方ルネサンスの大立者。
直接には、ウィーンの美術史美術館所蔵のブリューゲルの大作・≪十字架を担うキリスト≫の世界を。
ブリューゲルの絵には、大勢の人が出てくる。当時のフランドルの人々が。この絵にも、数多くの人が描かれている。当時のフランドルの人々、それに加え、聖書の世界、十字架を担ってゴルゴタの丘に引かれて行くキリストや聖母・マリアの姿。多くの人々が、ビッシリと描きこまれる。画家・ブリューゲル自身の姿も。

「ブリューゲルの動く絵」、文字通り、その絵が動き出す。
アーティストでもある監督のオレフ・マイェフスキ、静止している平面の絵画を、立体的な動く作品にしてしまった。それも、さまざまな人々が、ないまぜになって登場する。

元々のタイトルは、「製粉場と十字架」。この上の方の風車の力で粉ひき機をまわすのだ。それを日本語のタイトルは、「・・・・・動く絵」としたものらしい。日本語のタイトル、ピタリその通り。動く絵なんだから。

”摩訶不思議 寓話の世界に迷い込む”、と謳っているが、たしかに摩訶不思議、ポスターのこの一部だけを切り取っても。静止画、動画にかかわらず、ブリューゲルの世界。

実は、役者も凄い。ブリューゲルに扮するのは、ルドガー・ハウアー。聖母・マリアは、シャーロット・ランプリング。ブリューゲルの作品のコレクター役には、マイケル・ヨーク。いずれも60代後半、70に近い芸達者。

東京で唯一この映画がかかっていた渋谷のユーロスペースには、数多くのスチール写真が貼りだされていた。
ロビーには、監督・マイェフスキの頭に閃き、この映画のテーマとした、ウィーン美術史美術館所蔵のブリューゲル作≪十字架を担うキリスト≫の原寸大の写真も貼ってあった。天地124センチ、左右170センチ、1564年の作。
監督・マイェフスキは、この場面を摩訶不思議な動画に創りあげた。意表を突いた考察。たしかに、今までに例を知らない。

その≪十字架を担うキリスト≫の中央部を拡大する。
16世紀のフランドルの人々の中に、十字架を担い、磔刑に処せられるゴルゴタの丘に向かっているキリストの姿が描かれている。いや、キリストの動きがある。
とても興味深い映画。面白い。
なお、私は一度しか訪れたことはないが、ウィーンの美術史美術館は素晴らしい美術館だ。さすがハプスブルクの都。そのコレクション、すさまじい。
就中ブリューゲルのコレクションは凄い。あの≪バベルの塔≫もここにある。人によっては、この作品を見るだけで、生きてきた甲斐があったな、と思う人もいるだろう。
ついでだ。少し横道に逸れる。
よく世界の四大美術館・博物館、と言われることがある。四大の内、初めの三大までは、誰が考えても決まっている。パリのルーブル、ロンドンの大英博物館、ニューヨークのメトロポリタン。ここまでは、決まりだ。4番目が難しい。
四大美術館・博物館へ行っていないのはシャクだ。で、ある時期、第4番目の博物館・美術館を求めて歩いた。もちろん、時間はかかった。10年以上の時間が費やされた。第4番目の美術館・博物館、ここぞというところには、概ね行った。
常識的な人が言う第4番目の美術館、サンクトペテルブルグのエルミタージュ美術館。たしかに魅力的ではあるが、私の感覚とは少し違う。
マドリードのプラド美術館。ベラスケス、ゴヤ、エル・グレコばかりじゃなく、フランドル絵画のコレクションも凄い。ブリューゲルの作品も。
また、レンブラントの巨大な≪夜警≫やフェルメールの作品が4点も並ぶ、アムステルダムの国立美術館。ここも凄い。
バチカン美術館も凄い。システィーナ礼拝堂のミケランジェロばかりじゃない。大聖堂の裏の方から入るバチカン美術館、ギリシャ、ローマ美術から20世紀の美術まで、10を超える美術館で構成されている。さほど言われてはいないが、凄い美術館だ。
幾つかの美術館の塊と言えば、ベルリンのムゼウムスインゼル(ベルリン美術館)も凄い。いわゆる博物館島の総称。旧博物館、新博物館、ペルガモン博物館、主に5つの博物館、美術館で構成されている。ドイツの底力を感じる。
ウィーンの美術史美術館、これらの美術館・博物館に負けない。だから、世界四大美術館に入るかもしれない。それほど素晴らしい。
しかし、世界四大美術館・博物館、ルーブル、大英博物館、メトロポリタンの後の4番目に、これらどの美術館を入れてもおかしくはない。でも、西欧の国々ばかりなのか。やや寂しいな。アジアからどこか、と考える。
アジアだと、日中印。しかし、日本の美術館・博物館は、残念ながら弱い。世界基準からはほど遠い。インドのニューデリーの国立博物館やコルカタ(カルカッタ)のインディアン・ミュージアムには、素晴らしいものがあるが、残念ながら、置き去りにされている状況。日本に持ってくれば凄いものが、庭や軒下などにころがっている。
残るアジアは、中国のみ。北京の故宮博物院だ。ここは凄い。しかし、博物館・美術館としては、その感じ、少し異なる。サンクトペテルブルグのエルミタージュと似た感じ。あまりにも大きい。さらに、分散している。
故宮のコレクション、蒋介石が台湾へ逃げる時、その価値あるものは台湾へ持ち去った。今、台北の、その名も同じ故宮博物院にある。素晴らしいコレクションだ。
で、北京と台北の故宮博物院を合わせ、世界四大美術館・博物館に名乗りをあげる。これは、十分通用する。アジアの民としては、そういう思いもある。
なんだか、寄り道をしている内に、長くなってしまったようだ。このあたりで終わりにしよう。どういうことを書いたのか、よく解からなくなっているので。
ブリューゲルの世界とはずいぶん離れた感じがするが、焼酎のお湯割りは、ずいぶん飲んだ気がする。