梵字。

ほぼ2500年前、お釈迦さまがインドで開かれた仏教、中国、朝鮮を経て日本へもたらされた。
その後、役人や、学生や、お坊さんが、先進国の唐へ派遣された。先進知識や先端技術を学ぶために。今に名を残す人は多くいるが、そのスーパースターのひとりは、真言宗の開祖・弘法大師空海であろう。真言宗の「真言」とは、文字通り、仏の真実の言葉。真言密教は、その意味を知ることだ。
そんなこと解かってるわい、というお方、小学校か中学校で教わることをわざわざ書いて、ゴメンナサイね。
その真言宗、多くの門派に分かれている。「真言宗十八本山」という。金剛峯寺を総本山とするのは、高野山真言宗。長谷寺を総本山とするのは、真言宗豊山派である。
その真言宗豊山派から、「光明」という季刊誌が出ている。私は、真言宗豊山派の信徒ではないが、毎年、その新春号だけは読んでいる。お線香をわけてもらう時に、いただいているからである。A5判40ページばかりの小冊子だが、面白く、勉強になる。
今年の新春号の巻頭記事は、「天皇皇后両陛下長谷寺に御成り」、である。平城遷都1300年記念式典にあたり、昨秋、奈良へ行幸啓された時の模様が記されている。
東大寺、唐招提寺、薬師寺、室生寺などと共に、長谷寺にも行幸されたそうだ。長谷寺への天皇の行幸は、奈良時代、稱徳天皇の御代に記録があるだけで、実に千ニ百数十年ぶり、と伝えている。
私は、なぜか嬉しくなった。私も、遷都1300年の奈良に行った。あしかけ4日、正味3日で、9箇寺を巡った。長谷寺にも。
その頃、「今年、奈良に来なければ、一生後悔する」、という近鉄の広告コピーや、JRの宣伝に乗ることはないが、日本人なら、やはり、行くべきであろう、とも書いた憶えがある。だから、天皇も、と知り、余計に嬉しくなったのかもしれない。

今回の特集は、「梵字」であった。
<古代インドの創造神、梵天が作ったとされる梵語(サンスクリット)を表記する文字、それが梵字です>、とある。
その梵字の字体、シッダマートリカーの漢字訳「悉曇字」から、この字体を「悉曇(しったん)」と呼ぶそうだ。

弘法大師空海が、遣唐使として唐に渡った延暦23年(804年)から、遣唐使が廃止された寛平6年(894年)までの90年間、最新の悉曇が日本に伝えられたが、その後、大陸との交渉がなくなった日本では、当時の悉曇がそのまま今に伝わっている、という。
1200年前のインドが、日本に残っている、とも言える、とのこと。

日本語の「五十音」の配列も、梵字の母音と子音の並び方から生れた、と言われているそうだ。
知らなかった。

深い意味があるだろうことや、その字の姿が美しいな、とは思っていたが。

「お塔婆の話」、という囲み記事もある。
お釈迦さまの遺骨を納めた大きな土饅頭をストゥーパといい、それが「卒塔婆」と音写され、一般に「おとうば」と言われるようになった、と。
そのお塔婆の先端の切り込みは、こういう意味を持つそうだ。

梵字の書体にもさまざまなものがある、という。
細身で華麗なもの。刷毛書き書体。肉太で力強く素朴な書体。より正確な書体。これらの梵字の書体、江戸時代の学僧によって完成されたそうだ。

たしかに梵字、美しい。神秘的な美しさを持つ。
しかし、文字は、言葉として声に出した時、より大きな力を持つ、と書かれている。声として発しなければならないようだ。
「真言は不思議なり。観誦すれば無明を除く」、とお大師さま(弘法大師空海)は、説かれているそうであるから。