借面のアップル。

半月ほど前の夜の銀座、松屋の正面ガラスに、リンゴがゆっくり廻っていた。下の方、入口の上にもリンゴがある。こちらは廻らず静止したまま。

このように。

格子模様の松屋の電飾の上を、白っぽいリンゴがゆっくりと廻る。

下のリンゴは、松屋の正面入り口の上に留まる。
松屋、MATSUYA GINZAじゃないんだ。aは、大文字でなく、小文字なんだな。それを同じ大きさにする。このパソコンでは打てないが、こうして見ると、柔らかくシャレた感じを受ける。
”借景”、という言葉はあるが、これは”借面”だ。
白っぽいリンゴは、松屋のものではない。松屋のガラス面を借りている。では、借主は誰だ、といえば、ひと口齧ったリンゴは、アップルである。

中央通りを挟んだ松屋の向かい、アップルの入るビルがある。
その壁面と屋上に、アップルのロゴマーク・齧ったリンゴがあるのだ。松屋の壁面を借りているリンゴが。

アップル壁面のリンゴ。
その右側をひと口齧ったのが、アップルのロゴマーク。

屋上のリンゴのロゴは、ゆっくりと廻っている。

だから、それが松屋のガラス面に映ると、齧った痕が、右にいったり左にいったり。
それにしても、アップル、何か松屋に仁義は切っているのかな。借景料なんてものはないであろうから、借面料なんてものもないだろうが。アップル、たまたま松屋の前のビルだったから、ということは言えるが、やはり、何らかの仁義は、と私は考えるな。余計なことだが。

アップルのビルの側面に、小さなウィンドーがある。これは借面じゃなくて、自前のものだ。
iPod nanoが、ディスプレイされていた。指紋のようなものの上に、nanoの文字、面白い。
実は、この上には、”はじめて。こんな”、というフレーズが、下には、”iPod nano マルチタッチで楽しもう”、というフレーズがあったが、指紋にnanoの書き文字だけの方が、洒落ている。

iPodなど、私は、もちろん持っていない。ただ、音楽プレイヤーだとしか知らない。やけにちっぽけなものだ。指先でヒョイと挟めるほどのものであることに、驚いたくらい。
幾つかのタイトルが展示されていたが、去年の暮、チェンマイで見たトラとよく似たものがあった。これは、撮った写真を拡大したものだが、実物は、はるかに小さいものだ。
「火星まで30秒」って何のことかな、と思っていた。今日、nanoのビデオクリップを見たら、そういう名前のロックグループだった。
おそらく、若い人たちには知られたグループだろうが、そのビデオクリップ、甲冑をつけた日本の戦国時代の武士たちと、中国のそれとが、ごちゃ混ぜになったような映像が出てきた。まあ、タイトルがタイトルだから、アメリカのロッカーにとっては、そんなことは、さしたることではないのであろう。
そういえば、これらの写真を撮った前後の頃、アップルのカリスマ・CEOのスティーブ・ジョブズが、病気で休養するというニュースが流れた。「火星まで30秒」は知らなかったが、スティーブ・ジョブズは知っている。いつも、Tシャツにジーパンで出てくる男だった。
病気休養のニュースで流れたスティーブ・ジョブズの映像、ふくよかだった頬が、げっそりと削げていた。アップルの株価、急落していた。右側をひと口齧ったリンゴ、アップルののロゴマーク、モノクロにしたのもスティーブ・ジョブズの命だそうだ。センスがある。

暫く歩き振り返ると、こういう光景があった。大きなリンゴと小さなリンゴ。
大きなリンゴは、アップルのビルの側面に描かれているもの。小さなリンゴは、アップルのビルの屋上のゆっくりと廻るリンゴが、松屋のガラス面に映っている、借面のリンゴ。その対比、なかなか面白い。
何日か前、まだ陽のあるうちに銀座に行った。アップルのビルの屋上のリンゴは、やはり、廻っていた。松屋のガラス面にも映ってはいた。しかし、薄ぼんやりとしたものだった。
借景は、昼でもいいが、借面は、やはり、夜に限るようだ。