「好きだ」、とコストパフォーマンス。

晴れ。
今日のブロードウェー、南から北へ天井のない大型車の列が進む。バッテリー・パークから市庁舎まで。
27回目となるワールド・シリーズを制したヤンキースの凱旋パレード。選手が4、5人ずつ分乗している。もちろん、MVPの松井秀喜も含めて。
久しぶりにマンハッタンの紙吹雪を見た。以前は、色とりどりの四角い紙吹雪だったような覚えがあるが、今回の紙吹雪は、白くて細長いシデのような紙だった。市庁舎前での松井は、つい先日3選を果たしたばかりのNY市長・ブルームバーグから、何かカギのようなものを貰っていた。
ワールド・シリーズ第3戦が終わった後だったか、これからの2試合は、それぞれ1打席ずつしか立てないが、なんとか7戦までもつれこみ、ニューヨークに戻った後は、DHでの先発出場となるので、ホームランをあと2本打ってくれ、と書いた。
内1本は、逆転か満塁本塁打を、と書いたが、内心は、ともかくあと1本は、という思いであった。
それがどうだ、松井は。第7戦までもつれこまずとも、ヤンキー・スタジアムに戻った第6戦で、先制の2ランを放ち、第2打席、第3打席(この打球も、あとひと伸びでフェンスを超えたが、残念)でも2点タイムリーを打ち、計6打点。ワールド・シリーズのタイ記録を作り、シリーズを決めた。そして、日本人メジャーリーガー初の、ワールド・シリーズMVPとなった。
WS通算、13打席8安打、打率6割1分5厘、ホームラン3本、打点8。すごい。
ヤンキースが、ワールド・チャンピオンとなったのには、どうとも思わないが、松井が、MVPとなったことは、嬉しい。パレードの様子を伝えるニューヨーク・タイムズの電子版では、16枚の写真の中、松井が写っているのが2,3枚あり、ジーターよりも多かった。当たり前だ、MVPだもの、と日本人は考える。松井は、伝説になった、と多くのメディアは伝える。
でも、ニューヨークのメディアは厳しい。メディアの中には、「はたしてMVPは、松井でよかったのか」、なんてことを言っているものもある。人種の坩堝のニューヨーク、人種問題ではない。松井によそ者意識を持っているのでもない。レギュラーシーズンを通じたコストパフォーマンス意識が、尾を引いているんだ。
大リーグのレギュラーシーズンが終わった後の、9月20日のこのブログにも記したが、松井のヤンキースとの契約は、今年で切れる。その折り、年俸12億弱であろうと、7、8億であろうと、松井にとって、どうってことはないんじゃないか、とも書いた。そんな数値とは、まるで関わりのない私が言うのもなんだが、とも。
だが、冷静に考えると、やはり違うんだ。これから交渉が始まる松井の代理人は、アーン・テレムという切れ者。彼にとっては、12億弱と7、8億は、大違いなんだ。コミッションが大きく変わってくるんだから。相手は、これまた切れ者のヤンキースのGM・キャッシュマン。キャッシュマンは、松井の更改については、MVPを取った今でも言葉を濁している。
松井自身はどうか。松井は、MVPを取ったあとのインタビューで、こう言っている。「ニューヨークが好きです。ヤンキースが好きです。チームの仲間が好きです。そして、フアンが大好きです」、と。泣かせるよ、ホントに。日本人が泣くばかりじゃない。ニューヨークのオジさん、オバさん、若いのも、年取ったのも、みな泣くよ、こんな言葉を聞かされると。
しかし、現実はシビア。今、大リーグのゼネラル・マネージャーを務めている男の多くは、ハーバードやどこかでMBAを取った経営のプロ、だという。すべては、コストパフォーマンス、費用対効果で、ことを進める。ヤンキースのGM・キャッシュマンとて、同様であろう。
いかに、ワールド・シリーズでMVPを取ったとはいえ、松井の更改は、もつれる。おそらく、ヤンキースとの交渉は決裂するであろう。いかに、ニューヨークが好き、ヤンキースが好き、とはいえ、ヤンキースでは、DHしか使い道のない松井にとっては、辛いことではあるが。
野球もビジネスである。「好きだ」、ということと、コストパフォーマンスは、違った問題となる。
だが、松井のバッターとしての商品価値は、大リーグの中でも高い。来シーズン、おそらく、ピンストライプのユニフォームを着ていない松井となるであろうが、松井のこれから、まだまだ楽しみだ。
そういえば、日本シリーズ、巨人が4勝2敗で制した。MVPは、阿部慎之助。