驚くべきリアル展。

この3月、東博での「支倉常長と南蛮美術展」のことを記した。
支倉常長がスペインはじめヨーロッパへ渡り400年となる。それ故、昨年から今年にかけて、「日本スペイン交流400周年」に関係する行事が続いている。

4月中旬のMOT(東京都現代美術館)前。
二つの特別展が催されている。まずは左側の企画展から。

「驚くべきリアル スペイン、ラテンアメリカの現代アート」。
<スペインでは17世紀頃から、ベラスケスやゴヤにみるようなリアリズム絵画の系譜があり、・・・・・>、とMOTのパンフにある。
リアリズムの系譜、何もスペインに限らないがなー、どこの国でもそうであろうがなー、とも思う。
しかしーである。ベラスケスやゴヤの名を出してこられると、お説ご尤も、そうであります、となってしまう。彼らの後輩であるピカソやダリだって、その根底にはチョー(超)が付くリアリズムの上に築かれているんだからなー、とも考える。
ところで、この「驚くべきリアル」展のメインビジュアルとなっている作品。スーツ姿の男が白い馬に乗っている作品は、フェルナンド・サンチェス・カスティーリョの≪馬に捧げる建築≫。映像作品である。
フランコ政権時代、マドリード自治大学の建物の中、官憲が馬で行動できるように造ったそうだ。学生蜂起を押さえるために。確かに、それはリアルだ。
石の床を踏むヒズメの音、とても硬質な響き。

この企画展、スペイン北西部のカスティーリャ・イ・レオン現代美術館の作品で構成されている。
会場には、何冊もの図録が置かれていた。右手の青い図録がカスティーリャ・イ・レオン現代美術館の図録である。

左ページは、カルメラ・ガルシア≪無題(「楽園」シリーズ)より≫。右ページは、アンソニ・コイコレアの≪氷雨≫と≪両生類≫。

左ページは、セルヒオ・ベリンチョンの≪なだれ込む≫。右ページは、ビセンテ・ブランコの≪無題(「雪景色」シリーズより≫。

ハビエル・テジェス作≪保安官オイディプス≫。映像作品。
ギリシャ悲劇のオイディプスの物語、アメリカ西部の保安官となって現われる。出てくる人は、精神障害のある人。皆さん能面を付けている。不思議な作品。

ウンー、何じゃこれってのがこれ。
サンドラ・ガマーラの≪ガイドツアー(リマ現代美術館LiMacカタログ)≫。
右ページ上のタイトルは≪村上≫。村上隆の作品そのまま。左ページの真ん中には小さいが奈良美智の作品も。
サンドラ・ガマーラ、リマ現代美術館所蔵の作品をそのままコピーしたんだ。
そう思っていた。しかし、どうもそうではないようでもある。
ペルーのリマに現代美術館はあるようだ。しかし、その名称はリマ現代美術館ではないらしい。サンドラ・ガマーラ、架空の美術館の図録を作り、その図録を複写したようでもあるようだ。
それも驚くべきリアルかな、と思っていたが、そんなことそうでもないよ、と思いいたった。50年前のことを思い出した。
篠原有司男・ギューチャンが、自ら描いた≪ラウシェンバーグからの手紙≫を振りかざし、「イミテーション・アートだ。芸術は模倣だ」、と言い放った時もことをを思い出した。
模倣は、リアル。リアルに模倣するのも、リアル。

展示室のガラスに、MOTのロビーの三角が映りこむ。それを通し、外の光景も映りこむ。

タチィアナ・パルセロ≪信仰の行為#2#11d#18#25≫。
体、顔、手、足、いずれにも何かが描かれている。聖痕のように。
見つめる男、固まっている。

この空間、リアル。
この女性も止まっている。

正面の作品は、マリナ・ヌニェスの≪モンスター≫。
ジェンダーをテーマとしている作家だそうだ。

MOT、ミュージアムショップの奥の方にモニターがある。
そのモニターを見つめる右手のスキンヘッドの男は、厚手の黒いジャンパーを着ている。左手の長髪の男は、白いTシャツ。中央のマドリード自治大学構内の白馬に跨る男は、スーツ姿。
驚くべきかどうかはさておき、この情景、リアルではあろう。