やはり、金曜日だった。

エジプト情勢、急転直下、ムバラク政権崩壊した。やはり、3度目の金曜日に。

エジプトの現代史としては、ナセル等による王制打倒の軍事革命に次ぐ、革命といえる。
市民による革命は、成った。しかし、まだ、ほんのとば口だ。
なお、今日の写真、上のものも含め、すべてアルジャジーラ(Al Jazeera)のウェブサイトから引いた。その理由は、眠くならなければ、後述する。

すべては、一昨日夜(日本時間では、昨日の朝)のムバラクの演説にあった。権限は移譲するが、辞任はしない、という演説から。
これが市民の猛反発を招いた。カイロのタハリール広場(アルジャジーラは、”解放広場”と呼んでいるが)は多くの人で埋まった。はからずも金曜日だ、昨日は。金曜礼拝の後のデモ、最大規模に膨れあがった、という。カイロばかりでなく、アレキサンドリアやスエズ、その他の都市で。昨日のデモの参加者、エジプト全土で100万人に達したらしい。
夜に入り、ついにムバラク、辞任を表明した。全権は、軍最高評議会に移譲された。
上のアルジャジーラの「ムバラクは落ちた」という、タハリール広場の写真、その頃のもの。
実は私、ムバラク打倒が一気にならず、情勢が膠着状態に入った時、軍部によるクーデターの可能性多分にあるな、と考えていた。しかし、今のエジプト軍部の幹部、米軍首脳との繋がり、相当に強いものと思われる。オバマ政権の意を受けた米軍幹部から、エジプト軍幹部への説得工作、強烈なものであったであろう。「クーデターは、しないでくれ」、との。

軍の自制もあり、大量の流血は避けられた。しかし、革命だ。幾ばくかの血は流された。治安部隊や親ムバラク派の襲撃で。
この写真には、「ムバラクの30年に及ぶ支配を終わらせる為の、この18日間の行動で、300人以上の人が殺された」、というキャプションがついている。

昨日のアルアハラム(Al Ahram)の見出しも出ている。ムバラクが辞任表明をする前と、した後の見出しが。

これは、辞任を発表する前のアルアハラムの見出し。
大きなアラビア文字は、「みんなムバラクを見限った」、という意味だそうだ。

これは、辞任発表後の見出し。
「人々は、政権を打倒した」、という意味だという。ムバラクの辞任発表、昨日の夜だから、これは号外かもしれないな。
なお、アルアハラム、エジプト最大の部数を誇る新聞で、しかも国営である。いわば、政権側の新聞ともいえる。そのアルアハラムが、こう書いている。強権政治がいわれ、富の格差があり、多くの矛盾が、と報じられているが、それでもエジプト、アラブの国では、西側社会に近い面もあるのだろう。それとも、ジャーナリスト、変わり身が早いのか。

これは、今日のタハリール広場の写真。こういうキャプションがついている。
「ムバラクの鎮魂歌。誰が出てくるのか?」、という大きな文字に続き、「民主的な新しいエジプトを作る為、目立ったリーダーは何人もいるのだが」、というキャプションが。
たしかに、エルバラダイもいれば、ムーサもいる。軍の実力者もいるだろう。何より、ムスリム同胞団がいる。これからが、難しい。
ムバラク辞任後の会見で、「歴史的瞬間を目撃することは少ないが、これがその瞬間だ」、と言っていたオバマも、気の休まる暇はないだろう。
ところで、ここ半月余のエジプトの革命劇を見ていて、不思議に思っていることがある。
それは、エジプトは酷い独裁国家で、その社会は、それはもうトンデモナイものだ、ということが、急に、言われ始めたことである。サダトの後を継いだムバラクの治世が、長いのを知っている人は多いだろう。しかし、皆さん、エジプトがそれほど酷い国だってこと、知ってましたか?
エジプトといえば、ピラミッドとか、王家の谷とか、アブシンベル神殿とか、そういうイメージだったでしょう。ナイルを遡る何日間かのクルーズに行った人も、多くいるでしょう。その途中には幾つかの水門がある。その近くに行くと、岸辺を子供たちが走ってくる。観光客からお金を投げてもらう為に。所々寄る地でも、日本人から見れば、ウーンという光景も多く目にする。
しかし皆さん、エジプトには、1日2ドル以下で暮らす人が2割もいるなんて、知ってましたか? 酷い汚職の蔓延する国だと、知ってましたか? 酷い独裁国家だと、いう前に。むしろ、逆でしょう。
エジプトは、アラブの盟主である。中東の優等生である。そう思っていたのではないか。私も、そう思っていた。ピラミッドや、神殿や、ミイラにかまけて。
さすがアメリカは、その実情を知っていた。しかし、それを容認していた。イスラム原理主義が恐いから。
だから、メディアも、そのように報じていた。今にして思えば。日本のメディアもだ。手のひら返し、の感を抱く。ここ半月余の報道を見ていて、”不思議だな”、と思うこと、それである。

アルジャジーラは、不思議なメディアである。
アメリカをはじめとする多国籍軍のイラク侵攻時にも、アフガン爆撃時にも、CNNやFOXなどとは異なった視点で報じている。ビン・ラディンには好かれたが、ブッシュには目の敵にされた。独自性があるということだろう。少なくとも、西側メディアの目ではない、ということは言えるだろう。アルジャジーラ自身は、必ずしも、アラブの目でもない、と言っている。
そこに、独自性がある。
アルジャジーラ、その本社はカタールのドーハにある。先般のアジアカップ、ザック・ジャパンが優勝したドーハだ。石油成り金の国である。アルジャジーラの大株主は、カタールの首長、王様だ。その大株主の王様、どうもアルジャジーラに、相当な裁量権を与えているようだ。
カタール自体、おそらく、民主主義以前の国、専制君主制の国だろう。金のある今はいいだろうが、石油が枯渇する頃にはおかしくなり、政体も変わるだろう。でも今は、その首長、大株主として、アルジャジーラに自由な報道をさせてもらいたい。信念かもしれないし、趣味かもしれないが。
今日のエジプト写真、アルジャジーラから引いた由縁である。