焼肉ドラゴン。

前回の大阪万博の前年、昭和44年(1969)、伊丹空港近くのコリアタウン。在日コリアン一家の物語。
伊丹であるから正確に言えば兵庫県なのであるが、まあ大阪の周縁都市。万博の前年で、大阪の町は沸き返っていた頃だが、伊丹空港近くのコリアタウンはやや取り残された感じがある。
『焼肉ドラゴン』、元々は鄭義信の戯曲。2008年、日本の新国立劇場と韓国の権威ある劇場で上演されたそうだ。その年の読売演劇大賞、朝日舞台芸術賞、鶴屋南北戯曲賞など名だたる賞を取っている。
確かに面白い。
日本兵として戦い片腕を失くした男と、1948年4月3日の済州島での四・三事件で済州島へ帰れなくなった女、共に再婚。男には先妻との間に二人の女の子、女には連れ子の女の子がいる。そして再婚後に生まれた男の子が一人。女の子と言っても3人の子供は既に成人であり、血が通わない姉妹だが仲がいい。
男と女は焼肉(ホルモン)屋をやっている。明日はきっと、と力一杯生きている。
時代は少し異なるが、東京タワーのできる頃の東京の下町を描いた『ALWAYS 三丁目の夕日』を思い出す。
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高度経済成長期だったんだな。
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『焼肉ドラゴン』、脚本・監督:鄭義信。自らの戯曲を映像作品とした。
鄭義信自身は、在日3世だそうだが、在日コリアンを描いた映画には心に残る作品が幾つもある。30年近く前になる崔洋一の『月はどっちに出ている』が、私が知る中では最も早いものでなかったか。
鄭義信、その『月はどっちに出ている』の脚本も担当している。手練れの書き手である。
なお、男の先妻との間の長女、次女には、真木よう子と井上真央。女の連れ子の3女には桜庭ななみ。
男(お父ちゃん)にはキム・サンホ、女(お母ちゃん)にはイ・ジョンウンと韓国のベテランが。イ・ジョンウンは、アカデミー賞作品『パラサイト』にも出ていた。おばさん顔の売れっ子。
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役場から立ち退け、と言われている。このバラックから。男は、ここは戦後買ったものだと言っているのだが、役場の人間は、不法占拠だと言う。
男は、こう怒鳴る。「なら、腕を返せ」、と。
日本のために戦い、腕を失くし、戦後も懸命に生きてきた在日コリアンの叫び、胸を打つ。
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末っ子の男の子の話もあるのだが、それは端折る。
3人の姉妹はそれぞれの道を歩むこととなる。
左下の大泉洋、彼も在日コリアン。次女と結婚している。が、長女が忘れられない。昔、自分のせいで、長女の足に障害を負わせたことが心に引っかかっている。次女とは別れ、長女と北朝鮮へ渡る。この世の楽園・北朝鮮への帰還真っ盛りの頃であった。
離婚した次女は、在日コリアンの新しい男と韓国へ行く。
歌手志望でクラブで歌っていた3女は、そこの支配人と不倫の末結婚、スナックを開くという。
皆それぞれの道を歩んでいくようだ。北朝鮮へ行った長女たちが心配だが。
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お父ちゃんとお母ちゃんは、本気で生きていた。
3人の娘、北朝鮮、韓国、日本とバラバラになるのだが、それでも本気で生きてきた。ジンとくる。幸あれかしと祈る。