シエリト・リンド。

6年近く前になるが、その人のことを記したことがある。
自転車で転んだお年寄りを助け起こそうとして、その人も転んでしまった。頑丈な身体を持つ人であったが、その人も70代後半であった。不運なことに首の後ろを打ち、首から下が機能しなくなった。さまざまな処置が取られたが何ともならなかった。
よく食べる人で、大酒飲みでもあった。私より年上であったが、パワフルな人であった。6年近く前も見舞いに行った日に記したのだが、「死にたいと思っても、何もできない。死ぬこともできない」、と語っていた。
大企業での海外勤務が長く、最後はアメリカ支社のトップを務めていた。それ以前にはメキシコにも何年か駐在していたようだ。だからであろうか、英語はもちろんスペイン語もお手のものであった。後年、まだ元気だったころには、「今、韓国語をやってるんだ」、と話していた。出た学校は東京外語なので、言葉が好きだった。
相撲が始まってからは、部屋から出るのは週に2度ばかりになった私、一昨日、下の郵便受けに行った。スマートレターが入っていた。その人の夫人からの。
暫らく前に夫人からの電話で、その人が6年余の闘病の末亡くなったことは聞いていたが。
葬儀は家族のみで執り行った、焼香はご遠慮いただきたく、お供え、ご香典も辞退、と記された書面と共に、このようなものが入っていた。
袱紗である。
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ンッ、CIELITO LINDO、シエリト・リンドだ。このような袱紗は初めて見る。
亡くなったその人はカラオケも好きだった。スペイン語の歌をよく歌っていた。シエリト・リンドも。
メキシコ人、また、メキシコが好きな人は、このシエリト・リンドが大好きだ。何らかのことがあると、みんなでシエリト・リンドを歌っている。
ヤ、ヤ、ヤ、ヤときて
    カンタ ノ リョウレ!
    ポルケ カンタンド セ アレガン
    シエリト リンド ロス コラソネ
とくる。
    歌って 泣かないで!
    歌えば 元気になるよ
    素敵な その真心
シエリト・リンド、亡くなったその人も好きだった歌であろうが、その人の夫人の心にも残る歌だったんだ。
シエリト・リンド、本来愛の歌であるから。
シエリト・リンド、明るく陽気なマリアッチの演奏もいいが、哀調を帯びたというか哀愁が漂う歌声も得も言えずいい。