ヒトラーvsピカソ 奪われた名画のゆくえ。

ヨーロッパの列強諸国が、あちこちの古代美術などを持ち出し、自国へ持ち帰るってことは多々行われていた。
世界中のあちこちを領土としていたイギリス・大英帝国など、その最たるもの。大英博物館には、そうして持ち帰った世界の至宝が数多くある。ロゼッタ・ストーンを筆頭に。
もう4、50年前になるが、『日曜はダメよ』で世界に知られたメリナ・メルクーリがギリシャの文化大臣になった時、たしか、パルテノン神殿から剥ぎとっていき、大英博物館に収められているエルギン・マーブルをギリシャに返せと詰め寄った。叶わなかったようだが。
帝国主義列強、植民地その他からさまざまな美術品を収奪してきた。大英博物館ばかりじゃなく、ルーブルにも。ベルリンのペルガモン博物館など、古代ギリシャ、古代バビロニア、2000年以上前の巨大な祭壇や構造物をベルリンに再構築している。
また、敦煌莫高窟から膨大な「敦煌文書」をはした金で持ち去った英仏その他列強の行い、すべて略奪、収奪である。
が、それらを遥かに凌ぐ略奪、収奪が、20世紀1933年から1945年にかけて行われた。ヒトラーによる数々の美術品の強奪である。これはハンパないものであった。
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「ヒトラーvsピカソ」となっているが、ヒトラーとピカソが1対1で対峙しているわけではない。
もちろんピカソは、1935年のスペイン内戦中、故郷スペインゲルニカの町をドイツ空軍により無差別爆撃されたことの反撃、あの≪ゲルニカ≫を描いた。「絵で戦うんだ」、と。ヒトラーは不倶戴天の敵である。許せるわけはない。このタイトル、そのような反ヒトラーの芸術家の代表としてピカソを持ってきているようだ。
主題は、タイトルの後ろの部分、「奪われた名画のゆくえ」にある。
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『ヒトラーvsピカソ 奪われた名画のゆくえ』、原案:ディディ・ニョッキ、監督:クラウディオ・ポリ、ナレーション:トニ・セルヴィッロ。イタリア、フランス、ドイツの合作ドキュメンタリー。
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ヒトラー、ナチス・ドイツがヨーロッパ各地で略奪した美術品の総数は、約60万点にのぼるそうだ。
ヒトラーの狙いは、二つある。
一つは、故郷リンツに巨大な総統美術館を設立すること。
そしてあと一つは、美術作品、芸術の選別である。純粋なアーリア人による写実的で古典主義的な作品と、ゴッホやピカソ、ロートレック、ムンクといった退廃美術を選別することである。まさに、ユダヤ人の虐殺、ホロコーストと同じである。
画家となることを目指していた若者が、芸術文化の破壊者となった。
ヒトラーのナチズム、国家社会主義といわれる。アーリア民族第一の。
誰もそのようなことを言わないが、現在の自国第一主義というのもそれに近いのじゃないか。国連安保理常任理事国を構成している国のトップの皆さん、少なくともヒトラーの一亜種、変種ではないか。ヒトラーになる因子はある。余計なことながら。
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映画に戻る。
腕にハーケンクロイツを巻いたナチスの兵士、美術品を次々に略奪する。
裕福な個人からも、美術館からも、教会からも。
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ヒトラー、それらの作品を見て歩く。
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A.ローゼンベルクという指導者の下で、ナチス占領国の書籍や美術品、政治的文書の略奪を行なう、ローゼンベルク特捜隊という組織があったそうだ。
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ヒトラーが首相となった1933年以降、ヒトラーが純粋芸術というアーリア人による「大ドイツ芸術展」と、印象派やフォービズム、キュビズムなどの「退廃芸術展」が何度も開かれている。
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連合軍の「モニュメンツ・メン」と呼ばれる調査部隊。
1943年から1951年まで、ナチスの略奪品の調査に当たった、連合軍の美術史の専門家でもある兵士たち。ミケランジェロなど膨大な数の名作を救出したそうだ。
ところで、3年近く前、『黄金のアデーレ 名画の帰還』について記した。あの映画も、ナチスによって裕福なユダヤ人家庭から略奪されたグスタフ・クリムトの≪黄金のアデーレ≫が、ドイツ敗戦後、ウィーンのベルベデーレ宮殿に移されていたのを、元の持ち主の子孫が取り戻すというものであった。
やはり、ナチスがらみであった。
第二次世界大戦が終わってから70年余となる。しかし今なお、ナチス・ドイツが略奪した美術品約60万点の中、約10万点が行方不明だそうである。