文豪・泉鏡花 × 球体関節人形展。

地下鉄の根津で降り、不忍通りからすぐ言問通りへ折れ、東大の方へ歩く。
途中にこういう表示板がある。

向ヶ岡弥生町である。
不忍通りといい言問通りといい、古き明治の面影を漂わせている。趣き深い。
少し進んで左へ折れる。

すぐに大きな木の標柱が現れる。
片面に弥生美術館、片面に竹久夢二美術館と墨書されている。
両館共、弁護士・鹿野琢見により創設された私設美術館であり、建物の内部で繋がっている。

美術館の前に、スラリとした若い女性が立っていた。
短く切った髪は染めておらず元のまま。足元はズック靴。カッコいい。弥生美術館にはよく似合う。

文豪・泉鏡花の世界に、球体関節人形で対峙しようというもの。

艶めかしいこの人形は、吉田良の手になる球体関節人形。
泉鏡花の怪異譚『高野聖』の妖艶な婦人・女である。高野山の旅の僧が若い頃、飛騨の山の中で会った婦人・女。坊主の心をも惑わせる女である。

吉田良とこれらの弟子の人たちが出品している。
泉鏡花の怪奇、幻想の世界、『外科室』や『天守物語』を取りあげている人もいたが、吉田良ばかりじゃなく何人もの人が『高野聖』のあの妖艶、艶めかしい女に対峙していた。

こういうことである。
それにしてもバックの手指や脛、まさに「活き人形」。

<婦人は何時かもう米を精げ果てて、衣紋の乱れた、乳の端もほの見ゆる、膨らかな胸を反らして立った、鼻高く口を結んで目を恍惚と上を向いて頂を仰いだが、月はなほ半腹の其の累々たる厳を照らすばかり。>(泉鏡花『高野聖』 筑摩現代文学大系、1977年 筑摩書房刊)

<・・・・・、女滝の心を砕く姿は、男の膝に取りついて美女が泣いて身を震はすやうで、岸に居てさへ体がわなヽく、肉が跳る。況して此の水上は、・・・・・>。
球体関節人形、鏡花の迷宮に対峙している。が、しきったかな。

ドールアイ。
このような目つきで見つめられたらどうするか。
現実世界ではあり得ないよね。残念ながら。
魔界、幻想世界であるからこそであろう。おそらく。