解脱への道。

今年は、日タイ修好130周年だそうだ。そんなものか、まだ130年か、という思いがある。山田長政がシャムへ渡ったのは400年以上前なのに、と。
ま、しかし、正式な関係を結んでからは130年、そのようなものなのだろう。
それを記念する写真展が半月ほど前に開かれた。主催は、タイ国政府観光庁。オフィシャルなフォトコンテストであり、写真展である。「タイの風景」と「タイの文化」の2部門で。
その「タイの文化」部門の最優秀賞に高橋重夫の作品が選ばれた。この作品である。

高橋重夫≪解脱への道≫。
タイ・チェンマイのワット・チェディ・ルアンで撮ったもの。
高橋、何時の頃からか1年の1/3か1/4程度をチェンマイで過している。年に3度か4度行って。
実は、チェンマイのこのお寺には私も行っている。丁度7年前、2010年の12月に杉浦とふたり高橋のチェンマイの別荘へ招かれた。
ゾウのキャンプやデカいトラがいる所、北へ走り短時間ではあったがミャンマーやラオスへも案内してくれた。ミャンマーはヴィザを取ったが、ラオスはボートでメコンを渡ってそのまま入った。多くのお寺へも案内してくれた。私にとっては、王侯貴族のようなもてなしを受けた夢のような1週間であった。今も忘れられない。
帰った後、2011年1月に24回に亘り「北泰紀行」を記した。このお寺、ワット・チェディ・ルアンのことも。
チェンマイでの高橋ファミリーから受けた歓待を思うと、今でも気が高ぶる。
まずい。高橋の日タイ修好130周年記念写真展最優秀賞のことが本筋、≪解脱への道≫が本線であった。

この夏、こういう募集があったそうだ。
高橋、応募し文化の部の最優秀賞となった。
半月ほど前の週末、表彰式とレセプションがあったそうだ。先週、高橋と会ったら、高橋、そう言っていた。

そこで、このようなリーフレットを渡された、という。
タイへ来てください、と。多くの日本人に知らしめてください、と。

高橋にもらった夜、酔って震える手で複写したのでよく読めないな。
左の男性は駐日タイ王国特命全権大使、右の女性はタイ国政府観光庁東京事務所所長。共に、日本とタイの文化、友好、観光について記している。

「タイの文化」の部の表彰者たちの作品。
高橋重夫の≪解脱への道≫は、最優秀賞だから一番大きく扱われている。
その後、優秀賞、秀作、入選と続く。掲載写真のサイズが少しずつ異なる。何に限らず当たり前のことではあるが、少しウーンとも思う。
高橋の作品が一番でよかった、と改めて思う。
別に身勝手ではなく、レベルの差はあるのであるが。

今一度、高橋重夫の≪解脱への道≫を観てみる。
チェンマイに限らずタイにはお坊さんが多い。
このワット・チェディ・ルアンのお坊さんは、解脱への道を辿っているんだ。
同じワット・チェディ・ルアンの中でも物見遊山のお坊さんもいれば、パソコンでゲームに夢中の小坊主もいる。
坊主もさまざまである。
年の瀬である。
今日は、3時半から都内で所縁の人7、8人と飲んでいた。夜、帰って来たが酔っぱらっている。「解脱」にはほど遠い。
ウーン、オレは解脱することなく死んでいくのかな。

高橋が撮ったこのお坊さんは、「解脱への道」を歩んでいる。
古い仲間の連中、高橋のこの写真を観てどう思ったのか、酔った勢いで載せてしまう。
メールを発した順番で。
杉浦良允 <作品の写真は実物を見ると静かな寺院の中でお坊さんがたたずんでいて
光の印影とともに静謐さが漂っていました。これが高橋の世界なのだと感じました。>。
吉岡和夫 <荘厳なお寺の中で修行中の僧がふとみせた「解脱」とはちょっと異質な日常といった趣を感じました。「風景」部門の最優秀賞作品もそうですが、「解脱への道」は、ほかの入選作品よりもより強く、撮影している高橋さんの眼差しが濃密に感じられました。
それと、ふと思ったのですが、展示されている作品で、曲面状に湾曲したドラマティックな空やドームが取り入れられている写真が多かったですね。>。
杉浦京子 <作品は、文化の部で静かに確かにしっかりと存在感を示していました。右側の人物を実際の作品で見たかったのですが、やはり暗くてよく見えませんでした。この闇があるからこそ、黄色の僧衣を着た人修行僧とスリットから差し込む光が映えているのですね。光と闇の対比が人間存在の真実を示してくれているのだと思いました。>。
久木亮一 <宗教にからむ写真は、作為的と言うか、どうも思わせぶりな写真が多いように思うのですが、貴兄の作品には、そういった「力み」を感じませんでした。
修行僧の日常の一断面をサラッと切り取っていて、とても気持ちのいいものでした。貴兄はすでに「解脱」しているのか知らん?>。 
山本宣史 <高橋さんの「解脱」は何か迷っている若い僧侶、それのみを焦点としたところに惹かれるものを感じました。高橋さん本人は幾ばくか?>。
伊藤譲 <仏教世界の修行だの解脱だのといっても正直なところ無知同然の私です。それでも、高橋さんが切り取って見せてくれた沈黙の美の世界に、短時間といえどもしばし耽溺することができたのは、やはり幸せでした。>。
瀬尾典子 <静謐な作品の内にタイで長年過ごされた方ならではの造詣の深さを感じました。>。
犬飼三千子 <他の出品者の観光写真のような作品とは、質が違い素晴らしかったです。寺院の暗い内部に一筋さす外光で、冊子のような物を読む修業僧。他の人間や物がはっきり見えない中で、彼だけが浮き出て象徴的でした。左側のガラスに修業僧の手と冊子だけが写っていて印象的でしたが、あれは意図されたのでしょうか、偶然でしょうか。>。
鬼原憲生 < 展示されていた作品は事前に見ていた物とは違って、更に雰囲気のある素敵なものでした。>。
これらのメールに対し、高橋からはこのようなメールが届いた。
<権威あるものでもなく一過性の記念コンテストに、わざわざご足労いただき、恐縮です。
ありがとうございます。
今年もあとわずか、良い年をお迎えくださいますように。>。
高橋のこの奥床しさが皆を引きつける。

高橋、解脱への道の一合目か二合目程度には達しているのではなかろうか。
頭も丸めているし。