どこまで殺せば。

3日前、13日のNHK、「731部隊の真実」なるドキュメンタリーを流した。
人体実験、細菌兵器、あの悪名高い731部隊である。生きた人間に病原菌を感染させる。生きた人間を解剖する。おぞましい研究を行っていた。
日本敗戦後、幹部の多くは日本へ帰っていた。下っ端が後処理、証拠隠滅作業を命じられシベリアへ引っ張られた。ところが、いち早く日本へ逃げ帰った731部隊の幹部や研究者は、戦犯に問われることはなかった。研究情報と引き換えにアメリカから戦犯免責を受けたからである。戦争とはそういうものということのひとつの形であろう。
それにもまして許せないことがある。731部隊の幹部や研究者、多くの人が、京大をはじめとするあちこちの大学の教授や国の専門機関の幹部となっている。研究の名の許に多くの人間を殺した者がである。
戦争は、人の神経を麻痺させる。
昨日のNHKスペシャルは、「戦慄の記録 インパール」の再放送であった。
帝国陸軍史上最悪と言われるインパール作戦、なぜ無謀な作戦が実行され3万を超える死者を出したのか。インパール作戦、補給なき作戦である。補給は不可能と進言する参謀は更迭された。
大本営、南方軍、ビルマ方面軍、そして第15軍。指揮命令系統はこのようになる。
第15軍司令官が牟田口廉也中将である。日中戦争の発端となった昭和12年7月の盧溝橋事件にも関わっている男である。インパールの英軍を攻略するのに、無茶な作戦を立てた。しかし、上部組織であるビルマ方面軍、南方軍、さらに大本営まで、いわば黙認という形をとった。責任回避である。
で、この無謀な作戦で日本軍の兵士3万余の命が失われた。その多くが病死と餓死である。
いわば日本人兵士3万余を殺した第15軍司令官・牟田口廉也中将、日本敗戦後20年以上経った昭和41年まで生きている。晩年、「私の作戦は間違ってなかった」、と言っていたそうである。
戦争は、人の神経を麻痺させる。
3日前、13日のNHK、「731部隊の真実」の後BSで、「なぜ日本は焼き尽くされたのか」というドキュメンタリーが流された。
太平洋戦争末期、日本はアメリカにより徹底的に焼き尽くされた。B29による空爆で。

昭和19年(1944)末からアメリカによる日本本土爆撃が本格化した。
初めのうちは精密爆撃が取られた。主に軍事施設に対する爆撃である。しかし、次第に都市爆撃、無差別爆撃となっていく。大都市ばかりじゃなく地方都市までが焼き尽くされた。
アメリカは、木と紙でできた日本家屋の模型を作り、それを焼き尽くす焼夷弾爆撃のシミュレーションをしていたそうだ。

東京は100回を超える爆撃を受けた。
手前は東京湾。その向こう赤い濃淡の個所が攻撃目標である。東京下町の方が赤い色が濃い。

東京への最大の空襲は、昭和20年3月10日のB29による焼夷弾爆撃。
<ルメイ自伝>とある。
カーチス・ルメイこそ東京大空襲ばかりか、日本全土を焦土と化した男である。
カーチス・ルメイ、その精神構造は、言ってみれば日本帝国陸軍の牟田口廉也と似ている。精神力で無理を通す。ルメイ、B29を駆使、日本中を火の海とした。

昭和20年3月10日の東京大空襲、10万人以上の人が死に、100万人が被災した。

<B29、日本の首都へ1000トンを超える焼夷弾を浴びせる>、とある。

<東京は消えた、とルメイが語る>。
<51平方マイルが燃えた>、と。51平方マイルとは、132平方キロである。この夜、10万人の東京都民、一般市民が焼き殺された。
どこまで殺せば、と思う。
が、それが戦争なんだ。
日本を焼き尽くしたカーチス・ルメイ、1964年に勲一等旭日大綬章を受けている。佐藤栄作内閣の時である。自衛隊への貢献、というのがその理由。これも現実。
彼も吾も、「どこまで殺せば」、というのが戦争である。
昨日今日、ややトーンダウンしているが、アメリカと北朝鮮のチキンゲーム、一歩間違えれば「どこまで殺せば」となる。ドナルド・トランプと金正恩というめっぽう危なっかしい二人であるからに、なおのこと。



口直しに、下重暁子著『この句 108人の俳人たち』(大和書房 2013年刊)から、8月15日前後の句をいくつか。

     戦争が廊下の奥に立ってゐた     渡邊白泉

     死にて生きてかなぶんぶんが高く去る     平畑静塔

     てんと虫一兵われの死なざりし     安住敦

     人の肩に爪立てて死す夏の月     原民喜

     夢の世に葱を作りて寂しさよ     永田耕衣

     戦争にたかる無数の蠅しづか     三橋敏雄

     死なうかと囁かれしは螢の夜     鈴木真砂女

     死ぬに似る朝顔とめどなく咲くは     中村苑子

あと一句・・・

     すこしづつ死す大脳のおぼろかな     能村登四郎