ヒトラー暗殺、13分の誤算。

このところの北朝鮮、週一のペースでミサイルを発射している。金正恩の目指すところは、アメリカを攻撃できる核ミサイルなのだろう。昨日付けの労働新聞では、「我々の核抑止力は日増しに強化されている」、と記しているそうだ。
国家やその指導者、また官製メディアがなんと言おうと、こんなことをしていたら国が危ない、と考えている人間がある程度いるに違いない。いかに独裁国家、北朝鮮といえども。刈り上げ頭の若い男に任せていたら将来はない、国が潰れる、と思っている人間がいるに違いない。
オレが暗殺しよう、あの男を、国を救うため、と考えている男がいるに違いないのだが、と思うのは歴史から引き出される必然。暗殺計画が聞こえてこないのは、不思議。
金正恩暗殺計画、ということは北朝鮮からは聞こえてこない。金正恩の指令で兄貴を暗殺とか、アメリカによる斬首作戦といったものは聞こえてきたが。
独裁者が常に暗殺のターゲットになっているのは、歴史が教えている。
別格の独裁者であったアドルフ・ヒトラーを狙った暗殺計画は、40を超えるそうだ。

監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲルによる『ヒトラー暗殺、13分の誤算』はそのひとつ、ゲオルク・エルザーによる暗殺計画を扱う。無名の個人による暗殺計画である。
1939年11月8日、ミュンヘンのビアホール「ビュルガープロイケラー」でヒトラーを狙った爆発が起きる。しかし、爆発はヒトラーの演説が終わった13分後。ヒトラー暗殺は失敗に終わる。
そもそも11月8日にミュンヘンのビアホール「ビュルガープロイケラー」(ビアホールであるが、2000人近い人が入る)でヒトラーが演説をするということ、1923年11月8日のヒトラー率いるナチ党によるミュンヘン一揆に遡る。このクーデターとも言える一揆は失敗に帰した。
で、ヒトラー、この日にミュンヘンのこの場所で演説をしている。
1939年のこの日も。

その日、天候の状況が悪く、ヒトラーは飛行機じゃなく汽車でベルリンへ帰ることになったそうだ。
だから、演説を早く切りあげた。で、爆発は免れた。13分の差で。ゲオルク・エルザーのヒトラー暗殺計画、失敗に終わる。
ヒトラー暗殺計画、軍人や政党人が関わった大がかりなものがある。ヴァルキューレ作戦など軍上層部が関わった暗殺計画。しかし、いずれのヒトラー暗殺計画も失敗した。
その中で、ゲオルク・エルザーによるヒトラー暗殺計画、天候不良でなければ成功していた。
それにしても、ゲオルク・エルザーはなぜヒトラーを殺そうとしたのだろう。
ゲオルク・エルザー、軍人でもなければ、何らかの政党に属している政治的人間でもない。それが家具職人であるごく普通の男なんだ。
それがなぜ。

ヒトラー暗殺失敗、捕まる。背後関係を追及されるが、単独犯と答えるのみ。これほど周到な計画、単独犯なんてあり得ない、とさまざまな拷問を受けるが。個人でやった、単独犯、と答える。
単独犯なんだ。
ゲオルク・エルザーの過去に遡る。
音楽が好きな青年・ゲオルク・エルザー、湖で泳いだり、人妻に恋しいい仲になり子供も宿したり、幸せな日常を送っていた。それが、ナチスの台頭によって平穏な生活が壊されていく。
幸せな日常をヒトラーが、ナチスが壊していく、ごく平凡な普通人である家具職人、ゲオルク・エルザー、ヒトラー暗殺を企て実行する。

今の北朝鮮にも、アメリカに届く核弾頭とか、ソウルを火の海にするとか、日本にもどうこうとか、と言うことより、普通の生活がしたい、という人が大勢いるはずである。
1939年のドイツで「目を開けていたのは僕だけ」、というゲオルク・エルザーと同じく、2017年の北朝鮮で「僕は目を開けていた」、という男が現れることを秘かに望む。