素心 バーミヤン大仏天井壁画〜流出文化財とともに〜(続き)。

イスラム原理主義のタリバーンがバーミヤンの東西石窟の大仏を爆破したのは、2001年3月12日であった。立ちのぼる白煙の中、バーミヤンの大仏は崩れ落ちた。石窟の天井壁画も吹き飛んだ。
東京藝大が開発したクローン復元という技術、その天井壁画の復元に取りこんだ。
藝大陳列館の2階へ。

バーミヤン大仏天井壁画の復元、ここから。

ここを通って・・・

石窟の中へ入るよう。

正面のスクリーンには、バーミヤンの映像が流れる。
そして頭上には、爆破された東大仏仏龕の天井壁画。藝大COI拠点が開発したクローン復元の技術を用いたものである。
クローン復元、2D、3Dのデジタル技術に模写の伝統に基づいたアナログの技術を融合させたものらしい。藝大ならではの復元技術、と言えるのではないか。

スクリーンに流れる映像、向こうの方には白い峰々が連なる。ヒンドゥクシュの山々ではないか。
この日、NHKの最初の「シルクロード」の取材に関わったという人の解説があった。喜多郎のテーマ曲が印象的なあの「シルクロード」の。長く熱の入った解説であった。このアフガンのプロジェクトに関し、今でも、アフガンの人にカメラを託し、バーミヤンの撮影を続けている、という。それが送られてくるそうだ。

クローン復元に関しても、当然のこと力が入る。
解説が終わった後、その元NHK職員の人に訊いた。「今はどのようなことをおやりですか?」、と。「藝大の教授です」、という答えが返ってきた。このところ、ある分野の専門能力を持つ人が大学教員へ転じるケースがままある。従前からの教授ばかりでなく、客員教授や特任教授という制度もある。それにしても藝大教授への転身、さすがNHK。

東大仏仏龕の天井壁画・≪天翔る太陽神図(万神照応)≫は、こういうもの。
何とかお読みいただけるのでは。

今回の藝大によるクローン復元には、1970年、74年、76年、78年に実施された京大の調査時のポジフィルムが活用されたそうだ。

このような膨大な数のポジフィルムが。

東大仏仏龕の天井壁画、こちらから入口の方へ向かって見る。

仏龕内の天井壁画、当然さまざまな凹凸がついている。
その微妙なさま、どうして復元できるのか。藝大のクローン復元技術の故である。

左は、1970年代に撮影された写真を元に制作した復元図。
復元されていない箇所が幾つも見られる。
右は、2016年東京藝大COI拠点による想定復元図。
一部、不明なところはあるが、復元されているところも多い。

それで、このような蠱惑の空間が現れた。

細部も・・・

明らかになっている。

これは供養者か。

これは菩薩か。

石窟寺院、敦煌の莫高窟、トルファンのペゼクリフ千仏洞、インドのアジャンター石窟寺院、エローラの石窟寺院、これらの石窟には身を置いたことがある。
しかし、未だ行ったことがなく、これからも行くことができないバーミヤンの石窟壁画に、揺蕩う心地よさ、心の安寧を感じる。

今一度振りかえり、藝大COI拠点が復元したバーミヤン大仏天井壁画の空間から出る。
出たところに、今回のプロジェクトへのカンパをというところがある。1000円以上カンパすると今回のプロジェクトの報告書がもらえる。カンパした。

この報告書をくれた。
アフガンへ返還される流出文化財のすべてのカラー写真が出ている。バーミヤンの東大仏天井壁画の復元作業のことも出ている。もちろん、クローン復元のことも。
ところで、タイトルの「素心」って。
アフガンの流出文化財をアフガンへ帰そう、というプロジェクトの趣旨からいえば、「素心」、「本来の心」、という意であろうか。

報告書の中ほどには、観音開きのページがある。
バーミヤンの東西大仏が健在であったころの写真である。

バーミヤンと言えば平山郁夫。報告書を複写。
左は、≪バーミアン大石仏を偲ぶ≫(2001年)。右は、≪破壊されたバーミアン大石仏≫(2003年)。

これも報告書から。
タリバーンに爆破される前の東大仏。
タリバーンによりバーミヤンの東西大仏が爆破された後、平山郁夫はこう言った。
「大仏の復元には反対である。広島の原爆ドームのように、「負の遺産」としてそのまま後世に伝えるべきである」、と。自ら、広島の被爆者である平山らしい言葉。

こうして復元していったんだ。

で、こういう素晴らしい空間を作りあげた。クローン復元の技術を使い。
東京藝大、アフガン、カブールの国立博物館にこの空間を作り出すことを考えているそうだ。
ぜひ、実現してもらいたいな。