ルンタ。

ダライ・ラマ14世が亡命政府を置いたインドのダラムサラに、30年間も住み続けている日本人がいる。
中原一博、62歳。建築家であるが、ずっとチベットの人たちを支援している。

渋谷のシアター・イメージ・フォーラム、通路が狭い。7、80センチはあろうが。正面からではポスター入りきらない。切れてしまう。
仕方ない。上から斜めに撮る。

『ルンタ』、監督は池谷薫。
チベットの人たちを支援する中原一博を水先案内人として、チベットで今何が起きているのかを追う。特に「焼身抗議」について。
なお、「ルンタ」とは、「風の馬」という意。

このように、粗末な紙に馬の絵や経文が刷られている。
チベットの人たちは、峠の上などで空に向かい、数多くのルンタを放り投げる。幸せを願って。

シアター・イメージ・フォーラムのコンクリの壁にも、小さなルンタが吊るされている。
中国、チベットを力で抑えつけている。そのチベットでは、中国の圧政に対して自らの身体に火を放ち抵抗を示す「焼身抗議」が後を絶たない。
中原一博、ダラムサラからその模様を発信し続けている。

左上は、ダライ・ラマ14世。右の真ん中の男が、中原一博である。
建築家である中原一博、ダラムサラのチベット亡命政府に関係する多くの建物を造っている。「ダライ・ラマの建築家」、とも言われているようだ。しかし、それ以上にチベットの人たちに肩入れをする。チベット語も堪能である。
映画の初めの方では、中原一博が話すことにどこか違和感を覚えた。しかし、だんだんと、中原一博が坦々と喋ることに慣れてくる。
中原一博、普通のおじさんなんだ。その普通のおじさんが、ごく普通に、ごくありきたりの言葉で、「焼身抗議」した人のことを話す。それだからこそ、引きこまれていく。

これらの人たち、中国に対し抗議したことにより逮捕され、酷い拷問を受けた人たち。
右下の老人は、拷問で足を折られた。右上の女性は、「自分の苦しみを他の人が受けないように」、と話す。
ダライ・ラマ14世は、他人への思いやりを説く。チベット仏教、思いやり、利他、慈しみ、ということを思う。それが、チベットの民すべての人に備わっているように思えてくる。
なお、真ん中の写真に映っている旗は、フリーチベットの旗・雪山獅子旗である。

チベットの地。
ヤクが放牧されている。

ヤクの乳を搾る。

草原に虹が立つ。

ダラムサラの少年僧の目の前には、「焼身抗議」をした人たちの写真がかかっている。
今年3月31日現在では、その数141人。その後も増え、今月9日現在では、147人となっている。
チベットの人の「焼身抗議」、イスラム過激派の自爆テロとは異なる。自らの身のみを犠牲にする。まさに、利他。
中原一博、その実情をダラムサラから発信している。
心あるお方は、「チベットNOW@ルンタ」で検索を。



大相撲名古屋場所、今日が千秋楽。
今場所の興味の対象は、このモンゴルから来た二人の若者であった。

照ノ富士と逸ノ城。

9日目、照ノ富士、稀勢の里との一番が組まれた。
両者の対戦、まだ5回のみ。照ノ富士、如何に早く駈けあがってきたかが解かる。
稀勢の里と、終盤ひょっとして久しぶりで注射を打ったかなって思いを抱いた琴奨菊戦など、その10倍以上である。

照ノ富士、先輩大関・稀勢の里を破る。
時代は動いている。

やはり9日目、白鵬に逸ノ城が挑む。

勝負がついた後、白鵬、逸ノ城のアゴを突きあげる。
ダメ押しだ、横綱らしからぬ振舞いである、と白鵬は注意を受けた。
しかし、はたしてそうなのか。はなはだ疑問である。
逸ノ城、土俵際で力を抜いた。白鵬、それに対して怒ったんだ。これから伸びなければならない逸材に対し、さらにはモンゴルの先輩として。
白鵬の右手、ダメ押しではない。愛の鞭である。

13日目。照ノ富士と逸ノ城の一番。
照ノ富士は優勝争いに食いこんでいる。しかし、逸ノ城の今場所は酷い。

案の定、照ノ富士、小手投げで逸ノ城を下す。

今日、名古屋場所千秋楽、土俵下の旭天鵬。
旭天鵬、初土俵は1992年春場所。旭鷲山などと同期、モンゴル第一期生である。それから23年半、土俵に生きてきた。3年前には、幕内優勝もした。
40歳となった今、数々の記録も持つ。

最後の取組みは、栃ノ心との一番であった。
両まわしを引きつけ合う展開となったが、力尽きた。
西前頭11枚目で3勝12敗。十両陥落は決定的である。

土俵を去る時には涙が。
旭天鵬を惜しむ多くのファンの声があったんだ。旭天鵬、それに涙した。

今場所初日、旭天鵬、白鵬の横綱土俵入りの露払いを務めていた。

今日、千秋楽の横綱土俵入りの後、土俵を後にする旭天鵬(左)。
十両へ落ちてまで相撲は取りたくない。しかし、現実はそうなりつつある。これが最後の横綱土俵入りの露払いだ、と。

十両西11枚目の若の里も4勝11敗、十両から陥落する。
若の里、三役へ定着、大関候補と言われた男である。幕下では取れない。
39歳の若の里、旭天鵬と同期である。
お互いがお互いを気遣ってきた。
はからずも、引退も同時となった。

千秋楽結びの一番、白鵬と鶴竜の両横綱、がっぷり、互いにまわしを引き合う一番となった。
いい一番であった。

結局、白鵬が寄り切った。白鵬、35回目の優勝。
前人未到の荒野を白鵬は往く。
土俵下での優勝インタビューが面白かった。白鵬、こう語った。
「誰がとは言いませんが、私のことを力が落ちた、という人がいるようです。寂しい言葉は使わずに・・・・・」、と。
中継のNHKアナウンサー、解説の北の富士に、「NHKのことでしょうか」、と訊く。と、北の富士、「舞の海のことじゃないかな」、と答える。
実は今場所初日、結びの白鵬と新三役の宝富士との取組みの後であった。
白鵬、勝ったのであるが、宝富士、善戦した。その時、解説の北の富士、「宝富士は力をつけているね」、と話した。それに対し裏正面の舞の海はこう言った。「白鵬の力は少し落ちましたね」、と。
私は、北の富士のコメントも舞の海のそれも、共に的を射ているな、と思った。
新三役の今場所は大負けしたが、宝富士は確実に力をつけている。白鵬については、ここ何場所か、優勝はしてはいるが、ピークは過ぎたな、との思いが強い。
しかし、白鵬自身は、「クソッ、この野郎」、と考えていたんだ。
この調子だと、まだあと数年は白鵬の時代、となるかもしれない。
白鵬、優勝インタビューで、「大先輩の・・・・・」、と旭天鵬の引退にも触れ、優勝パレードの旗手を旭天鵬に務めてもらうことを話す。
白鵬、常に日本社会と戦っているように思えてならない。