キネマ旬報95年(続き×3)。

「キネ旬」ときたら、忘れてはならないものがあとひとつある。
今年春先の柏、キネマ旬報シアターには、このような紙も貼ってあった。

キネ旬のベスト10である。
直近の「2014年 第88回 キネマ旬報ベスト・テン&個人賞」は、3か月前の「キネマ旬報 2月下旬号」で発表された。
キネマ旬報のベスト10や各賞、アカデミー賞のそれよりも歴史がある、という。
今年2月22日にハリウッドで催された2015年アカデミー賞は、第87回であった。それに対し、やはり今年2月に発表されたキネ旬の賞は第88回。キネ旬の方が1年多い。
1919年に創刊されたキネ旬、1924年(大正13年)からベスト10の発表を行なっている。
しかし、キネマ旬報、95年の、いや間もなく96年となる歴史を持つが、戦争前後に10年のブランクがある。じゃあ、どうして88回となるんだ。誰しもが疑問を持つ。
実は、発行を止めていた期間も1943年から45年の3年間を除き、ベスト10の発表を行っていたようなのだ。だから今年は88回となる。1942年には、『ハワイ・マレー沖海戦』がトップの模様。キネ旬の2月下旬号に、そう出ている。
毎年の選考者も凄い。映画評論家や日本映画記者クラブ員その他、多士済々。
今年の選考者には、先般亡くなった品田雄吉や山根貞男、佐藤忠男といった大御所連中から、川本三郎、小野耕世、渡辺祥子といったよく知られた人たち、さらには、四方田犬彦、寺脇研、中原昌也といった曲者の名も見える。
それだからこそ、キネ旬の「ベスト10&各賞」、信頼に足る客観的な映画賞である、との評を受けているのであろう。
今年初め、2月に発表されたキネ旬の「ベスト10&各賞」、の選考委員には、日本映画には59名、外国映画には62名の人たちの名があった。
その映画に関しては”我こそは”、と思っている選考委員が選んだ結果は、これである。

日本映画ベスト・テンは、1位 『そこのみにて光輝く』、2位 『0.5ミリ』以下このようなもの。私が観たものは5つ入っている。
外国映画ベスト・テンは、1位 『ジャージー・ボーイズ』、2位 『6才のボクが、大人になるまで。』以下の10作品。外国映画も、私が観たものは5つ。まあまあか。
1位にいこう。まず日本映画。
『そこのみにて光輝く』である。
2位以下に大差をつけての、ぶっちぎりの1位である。
悲しい、いや、哀しい物語である。
格差社会の極み。涙も出ない。
今日、メラネシアやミクロネシアやポリネシアのトップを日本に集め、550億円を振舞っていた安倍晋三に見せたい作品だ。
なお、この『そこのみにて光輝く』、作品賞ばかりじゃなく、監督賞、脚本賞、主演男優賞(綾野剛)も取った。
監督賞の呉美保、大阪芸大を出た後、大林宣彦の下で修業し独立したまだ30代の若い映像作家である。キネ旬の監督賞を受けた初の女流である、という。今後が楽しみ。
外国映画のベスト1がクリント・イーストウッドの『ジャージー・ボーイズ』であるのは、誰しもが納得であろう。イーストウッド、何を撮っても唸らせる。
ところで、主演女優賞は安藤サクラである。『0.5ミリ』や『百円の恋』での演技、ハンパじゃない。キネ旬の主演女優賞を取って何の不思議はない。
しかし、主演女優賞、『そこのみにて光輝く』の池脇千鶴にも、との思いが去らない。怪優・安藤サクラとの同時受賞でもいいんじゃないか、との。
しかし、キネ旬の賞、そうはいかないんだ。
キネ旬のベスト10&各賞、厳密に採点されているんだ。
選考委員の誰が、どの作品に、また、誰に何点を入れたか、ということが発表される。直近のそれは、「キネマ旬報 2月下旬号」に掲載されている。目利きであるかどうか、一目瞭然となる。
それだからこそ、キネ旬のベスト10&各賞は、権威を保ち続けられた、と言っていい。