至高のエトワール。

今年は第二次世界大戦の終結から70年。さなざまな記念行事が行なわれている。
一昨日には、モスクワ、クレムリン前の赤の広場で、ロシアの対ドイツ戦勝70年記念の軍事パレードが行なわれた。60年記念の時には顔をそろえた欧米日の首脳はボイコット。プーチンの横には習近平。遥か昔、やはり赤の広場に立つスターリンと毛沢東のことを思い出させる。
冷戦、真っただ中、時は60年ばかり巻き直されたのか。プーチン、危険な領域へ入りつつある。
しかし、70年前のベルリンには、より危険な男がいた。アドルフ・ヒトラーである。
連合軍のノルマンディー上陸、北からはソ連軍もベルリンへ迫る。ナチス・ドイツが敗れることは決定的な時期である。ヒトラー、パリを破壊しろという命令を出す。
ノートルダムも、ルーヴルも、凱旋門も、ポンヌフを除くセーヌにかかるすべての橋も、さらにオペラ座も、と。フォルカー・シュレンドルフによる作品『パリよ、永遠に』で紡がれる物語。しかし、二人の男の腹芸で、パリは破壊されずに救われる。
それだからこそ私たちは、素晴らしい場、パリ・オペラ座へ行くことができる。

ヨーロッパを旅する楽しみのひとつに、オペラハウスがある。異次元の異空間、と言っていい。
始まりはミラノのスカラ座であった。20数年前ミラノに行った折り、スカラ座の立見席、当日券がある、と聞いた。早速駈けつけ、やっとのことで当日券をゲットできた。天井桟敷、日本円では千円にみたない値段だった、と思う。しかし、面白かった。
これを境に夜の行動が変わった。悪所からそれと対極の高尚な世界へと。
パリのオペラ座、ベルリンの国立オペラ劇場、ウィーンやブダペスト、プラハの国立オペラ劇場、モスクワのボリショイ、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場。途中で眠ってしまったこともあるが。
7年少し前、ヨーロッパを1か月歩いた時にも、幾つかのオペラハウスへ行った。
ロンドンのローヤルオペラは、正規のチケットが買えた。ベルリンの国立オペラ劇場には2日続けて行った。当日券、最初はたしか8ユーロのチケットで、翌日は80ユーロのチケットが買えた。イタリア語で演じられた「マダム・バタフライ」、ドイツ語で表記されたモニターがあった。私は、イタリア語もドイツ語も解からない。でも、「マダム・バタフライ」の概略を知れば、十分堪能できる。
ヨーロッパのオペラハウス、、当日券でも案外買える。しかも安い。と言うか、安い席しか残っていないのであるが。7年前のベルリンのオペラハウスの最も安いチケットは、たしか8ユーロであった。

『至高のエトワール』、監督:マレーネ・イヨネスコ。
オペラ・ガルニエとして知られるパリの旧オペラ座、バレエ公演が多い。最も安い天井桟敷しかないが、並べば当日券が買えることもある。出し物により異なるが、20ユーロ程度。

『至高のエトワール』、2013年、「椿姫」で引退したパリ・オペラ座のエトワール、アニエス・ルテステュのアデュー公演までの2年間を追いかけているドキュメンタリー。

アニエス・ルテステュ、大柄な踊り手である。華を感じる。

長年のパートナー、アデュー公演のパートナー。

一週間少し前、20世紀最高のバレリーナと言われるマイヤ・プリセツカヤが死んだ。
バレエの踊り手にはいつも、不思議な感じを受ける。マイヤ・プリセツカヤにしろアニエス・ルテステュにしろ、この上なく美しい。バレエ・ダンサーが空間に描く美しさ、独特の美しさ。

渋谷Bunkamuraル・シネマのささやかなディスプレイ。