蜩ノ記。

9月初めから、この半年ばかりの間に観た映画について記してきた。
30本弱となろうか。他のこともある。昨日の『ジャージー・ボーイズ』でひとまず終りにしよう、と思っていた。と、変なことに気がついた。この半年に観た映画、洋画ばかり、日本映画を観ていない。最後に観た邦画は、春先に観た海老蔵が利休に扮した『利休にたずねよ』か。
拾ってみると、去年は日本映画もそこそこに観ていたのに。
瀬戸内寂聴の色曼荼羅自伝『夏の終り』、アキコ・カンダを追った『そしてAKIKOは・・・』、西原理恵子のこれも自伝だな『上京ものがたり』、中平康が加賀まりこで撮った『月曜日のユカ』、妹尾河童のこれも自伝『少年H』、宮崎駿の『風立ちぬ』、石内都を追った『ひろしま』、やはり原爆がらみの『ヒロシマナガサキ』、鈴木清順の『殺しの烙印』、長嶺ヤス乎を追った『裸足のフラメンコ』、ほのぼの男の辞書づくり『舟を編む』、若松孝ニの3作・『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』、『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』、『千年の愉楽』(中上健次)、そして山田洋次の監督50周年記念の『東京家族』。
こうして見ると、個性の強い人物を追った作品が多いな。それはともあれ、去年は、まあ、邦画も観ていたんだ。
それだのに、今年はたったの1本。まずい。これはいけない。
で、2、3日前、近所のシネコンへ駈けこんだ。
今、日本映画を代表する役者は、高倉健であろう。しかし、文化勲章を貰った健さん、半ば休業状態である。では、現在の日本映画を現実に引っぱる役者は誰か。渡辺謙か役所広司ではあるまいか。
近所のシネコンでは、役所広司が主役を演じる『蜩ノ記』がかかっていた。

『蜩ノ記』、原作は葉室麟の直木賞受賞作。監督は、黒澤明の弟子・小泉尭史。
豊後、羽根藩の物語。
城内で刃傷沙汰を起こした檀野庄三郎(演じるのは、今を盛りの岡田准一)、切腹を免じるかわりに、藩内の僻村で幽閉されている戸田秋谷の監視を命じられる。
戸田秋谷、藩主の側室との不義密通の疑いをかけられ、7年間幽閉されている。3年後には切腹、という身である。それまでに、藩の家譜を完成させなければならない。
10年後の切腹を命じられた男の残された人生。

”義を見てせざりは、勇なきなり”。
戸田秋谷、来るべき3年後のその日を待つ。心静かに。

秋谷、村人、百姓の思いにも共感する。
百姓一揆を扇動した疑いもかけられる。

ついにその日は来る。
右端の写真、戸田秋谷、死に装束の裃を身につけ、妻(原田美枝子)に髪を結ってもらっている。
疑惑の事件の日から丁度10年の8月8日。「今日も暑くなるな」、と秋谷は言う。その心、あまりにも平穏。

切腹の場へと歩を進める戸田秋谷。
「この10年、死ぬことを、自分のものとしたい。そう思って生きて参りました」、と語る。
できすぎているよ。人も映画も。「過ぎたるは・・・・・」、という言葉を思い出す。
いい映画である。が、ウディ・アレンやクリント・イーストウッドが醸し出す得も言えぬ何か、が感じ取れない。
表現というもの、クソ真面目な正面突破ばかりじゃないんじゃないか、な。。