ビバ メヒコ!

ベルギー生まれではあるが、メキシコに30年近くも住んでいると、メキシコの人にとっては「フランシス・アリスはメキシコの作家である」、との思いが強くなるであろう。不思議ではない。
で、フランシス・アリスの特別展にあわせ、MOT(東京都現代美術館)のミュージアムショップの奥のスペースでは、メキシコシティーの写真が掲げられている。主催は、メキシコ大使館。タイトルは、

このようなもの。
なお、DFとは、Distrito Federal(連邦区)のこと。メキシコの首都・メキシコシティー、州に属さない連邦区。アメリカの首都・ワシントンDCに感覚的には(実際は違うのであるが)似ている。

主催者、こう言っている。
<我々は、驚くほど多様な刺激に囲まれた暮らしを営んでいる>、と。

メキシコシティーの人口、900万人近い。大きな都市空間である。
で、一冊の書籍を刊行した。その写真展である。

そこには、多様な物語りがある。
それぞれの人たち、この都市とどう関わって暮らしているのか。

ルチャリブレのマスクマンである。メキシコ、マスクマンの本場である。
蛇足ながら、ルチャリブレとは、メキシコでのプロレスのことです。ずいぶん昔、ミル・マスカラスなんて派手なルチャリブレのマスクマンが来た、という記憶がある方も多かろう。

メキシコDF、多様なんだ。

空を飛ぶ人もいれば、火を吹く人もいる。

このマスクマン、火に囲まれている。
左の写真は結婚式の模様のようである。花嫁さんがいる。

メキシコ、9割の人は、敬虔なカトリックである。多くの聖なる行事がある。
これは、イエス・キリストが十字架に架けられた聖金曜日のキリストの磔刑、キリスト受難劇の再現であろう。

メキシコの街中、あちこちにカラベラ(骸骨)がある。ガイコツ好きなんだ、メキシコの人たち。

展示の端の方の丸テーブルの上に、分厚い書が一冊乗っている。
メキシコシティー・メキシコDFの多様性を紹介した写真集である。展示されていたのはその一部。
それはいい。そうではあるが、メキシコDFといえば、

この人であろう。
フリーダ・カーロである。

9年前、正確にいえば2004年5月5日、フリーダ・カーロ美術館で求めた書の表紙。この人がフリーダ・カーロ。

その書の表紙の裏、扉の前に、この写真が貼ってあった。
フリーダ・カーロ美術館の入口。囲んだ塀は青く塗られている。だから、”青い家”。
実は、ここまで到達するのがひと苦労であった。
地下鉄とバスを乗り継いでコヨアカンへ着いた。ところが、フリーダ・カーロの美術館が、おいそれとは見つからない。何人もの人に聞きながら、やっとたどり着いた、という思いがある。
この中は撮影禁止。この写真が唯一の写真である。で、あとは図録から複写する。

<二人のフリーダ>。
フリーダ・カーロ、生涯に受けた手術は数十回。このような状景、日常であった、とも言える。

フリーダ・カーロ、メキシコ美術界の大立物・ディエゴ・リベラと結婚する。
フリーダ・カーロ、自画像を描き、その額にディエゴ・リベラの肖像を描く。

フリーダ・カーロの日記の1ページ。
エンゲルス、マルクス、レーニン、スターリン、そしてマオ・毛沢東。フリーダ・カーロ美術館の中には、このような文字が多くあった。毛沢東の写真も3枚飾られていた。
フリーダ・カーロ、1954年に死んだ。もしも、あと何年か生き永らえていたならば、ホー・チミンとフィデル・カストロの名も書き加えられていたであろう。
その日、その後、トロツキーの博物館へ行った。フリーダ・カーロ美術館からすぐ近く。
スターリンの手を逃れメキシコへ逃れてきたトロツキー、ディエゴ・リベラなどメキシコのコミュニストに匿われる。
この頃のメキシコの絵描き、すべての人がコミュニスト。その当時の3巨人、リベラ、オロスコ、シケイロス、すべてそう。
それはそれとして、恋多き女・フリーダ・カーロ、トロツキーともわりない仲となる。ご両者とも、強烈なオーラを放っているのだから、まあ当然。
10年くらい前、フリーダ・カーロの生涯を描いた映画・『フリーダ』が公開された。フリーダ・カーロに扮したのはひと月ほど前記したオリバ−・ストーンの『SAVAGES/野蛮なやつら』で、メキシコの麻薬カルテルの女親分を演じていたサルマ・ハエック。まさにドンピシャの配役であった。
要塞化した屋敷に匿われたトロツキーも殺される。
メキシコDF、昔も今も”野蛮”が似合う町である。そうは言ってもである。真相は不明、とされているらしいが、そんなことはない。黒幕は、遥か離れた北の国の鼻下に髭を生やした男であろう。
コミュニズムが存在していた時代である。コミュニズムの本質が争われた時代の話である。今、コミュニズムは無くなった。それを標榜している国はあるが。
中国はコミュニズムや社会主義とは名ばかり、超資本主義国家であり、ベトナムは完全に資本主義となり、キューバもその方向へ舵を切っている。ミャンマー(ビルマ)も、急激にまともな国になりつつある。そして、コミュニズムを謳う残る一国・北朝鮮のみ、資本主義どころか帝政、君主制の国となった。世界史って面白いよ、やっぱり。

それはともかく、フリーダ・カーロ美術館のミュージアムショップで求めたピンバッジ。私の部屋にとめてある。
よく撮れていないが、フリーダ・カーロばかり。

私の部屋、カラベラ、骸骨もある。
9年前、メキシコシティーのダウンタウンで求めたカラベラ(骸骨)、木製の大したことのないものである。
たまに風に吹かれると揺れている。
VIVA MEXICO、ビバ メヒコ。