凄いなー。凄いなー。

このひと月ばかりの間にはパラリンピックもあった。8月29日から9月9日にかけて。
オリンピックに出てくる選手も、常人とは異なる人ばかり。いずれの人も、傑出した能力を持っている。だが、パラリンピックの選手もそれに負けない。それどころか、凄さでは勝る、という選手も多い。
凄いなー、凄いなー、と”凄い”を重ねる選手もいる。
オリンピックに比べれば、放送時間は格段に少なかったが、幾つか頭に残る場面をNHKの画面から。

開会式。
ユニオンジャックが掲げられる。

地元・イギリス選手団の入場。車いすのホイールにもユニオンジャックが。

エリザベス女王による開会宣言。女王、お元気そうである。

開会式セレモニー。パラリンピックならではの光景。

聖火も同様、パラリンピックならではだ。

ロンドン・パラリンピック、日本の金メダル第一号は、この選手。柔道100キロ超級(視覚障害)の正木健人。
視覚障害者の柔道、双方組み合ってから始める。そうなりゃ、日本は強い。嘉納治五郎の頃の柔道なのだから。正木健人、一本勝ちを重ね、センターポールに日の丸を挙げた。

日本の障害者スポーツを引っ張ってきた一人に、土田和歌子がいる。いや、中核の一人、と言ってもいい。
車いすランナーの土田和歌子、北京ではアクシデントに巻き込まれ重傷を負い、結果を残すどころではなかった。ロンドンでは、メダルを狙っている。それも、金を。
しかし、土田和歌子、ロンドンでも転倒した。脹らんできた選手を避けようとして転倒した。車いすのランナー、転倒したら、自らの力で起き上がらなければならない。大変だ。大きなハンデとなる。
それでも、女子車いすマラソンの土田和歌子、5位となった。凄い。

この男は、車いすテニスの第一人者・国枝慎吾。北京、ロンドン、連覇を果たした。

球技もさまざまなものがある。これは、ゴールボール。視覚障害者のためのスポーツだ。
攻撃側は、鈴のような音が出るものが入ったボールを投げる。守備側は、手足を含め身体全体を使いそのボールを止める。ゴールを割らさない。身体を投げ出して防ぐ。聴覚を頼りに、一瞬の判断で。聴力プラス瞬発力の闘い、と言ってもいいのかもしれない。
日本、この競技で金メダルを取った。相手のボールを次々と止める凄い選手がいた。

パラリンピック全体の注目度で言えば、南アフリカのオスカー・ピストリウスがダントツであった。
ピストリウス、少し前のオリンピックにも出たブレード・ランナー、義足のランナーである。オリンピックでは勝てなかった。
だがしかし、”しかしだな”、と私が思っていることがある。義足、おそらく、遥かに進歩するに違いない。オリンピックで義足のランナーが勝つことになる時代は近い、と考えている。技術の進歩が肉体を上回るのだ。
当たり前のことじゃないか、このようなことは。だから、ブレード・ランナーのオリンピックへの参加は問題がある。このこと、差別ではない。まったく別問題。テクノロジーの問題なんだ。
今回、図らずもそれが露呈した。
陸上200メートル(切断、機能障害)予選で、ピストリウス、21秒30というタイムを出した。世界新記録である。しかし、決勝では、ピストリウスは敗れた。ブラジルのアラン・オリベイラに。その時、ピストリウスはこう言った。
「オリベイラの義足は長すぎる。不公平だ」、と。
「オリンピックに参加させろ」、と言ってきたピストリウスの言葉と、「彼のブレードは長すぎる、不公平だ」、と言うピストリウスの言葉は矛盾する。しかし、義足の本質を突いている。それでなくても、技術の進歩があるのだから。今後、避けて通れない問題であろう。
そんなことより何よりも、私がロンドン・パラリンピックで凄いなーと思ったのは、この男である。

競泳男子100メートル平泳ぎ(運動機能障害)の中村智太郎である。
パラリンピックには、同じカテゴリーの中にも、さまざまな選手が出てくる。一口に運動機能障害と言っても、その程度はさまざま。

中村智太郎、この選手である。
アテネでは銅メダルを取ったそうである。北京ではメダルを逃したようだが、ロンドンでは、銀メダルを取った。

レース後の中村智太郎である。
中村智太郎、生まれた時から両腕がないそうだ。
で、パラリンピックで銀メダルを取る。タイムは、1分22秒04である。驚異的なタイムである。第一、両腕がなくて泳ぐことができるのか。しかも、こんなタイムで。
できるんだ。初めて知ったが、平泳ぎ、腕よりも足の方が大切なのだそうだ。中村智太郎は、こんなことを言っているそうだ。
「北島康介は手のある自分」だったか、「自分は手のない北島康介」だか、といったことを。それにしても、凄いなー。
しかし、それで驚くのはまだ早い。
腕のない、つまり、手のない中村智太郎、どうやってターンをしたりゴール板に触ったりするのか、という疑問がある。その答えが凄い。
ゴツン、とプールの壁にぶつかるのだ。頭で。
これを凄いと言わずして、何を凄いと言うか。
いや、その凄いこと、凄いなー、凄いなー、を何回繰り返しても足らないほどだ。

閉会式。
サンキュー ロンドン、サンキュー イギリス。火は消えていく。