真珠湾70年(続きの続き)。

佐藤優の著『日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み説く』の上梓は、5年前、2006年である。この年は、極東国際軍事裁判(東京裁判)の開廷60周年にあたる年。
佐藤優は、<戦勝国がA級戦犯の罪状とした「平和に対する罪」のような、太平洋戦争勃発時に戦争犯罪として国際法に明記されていなかった罪の責任を問われる謂れはない>、との立場をとる。戦前、戦中の時代を美化はしないが、<敗戦後にアメリカの謀略工作によって刷り込まれた物語、・・・・・から抜け出すことが必要になっていると考える>、と記す。
で、大川周明の『米英東亜侵略史』に出会う。鈴木宗男がらみで外務省を追われ、512日に及ぶ東京拘置所の独居房で62冊に及ぶ思索ノートを書きあげた佐藤優、五・一五事件で、豊多摩刑務所在所中、120頁綴りのノート40冊を書きあげた大川周明に、互いに思索する国士として、吾が身を重ね合わせていることもあろう。
それはともかく、大川周明のこの書は、日米開戦の直後、昭和16年12月14日から25日にかけ、NHKで12回にわたり放送された大川の講演に手を入れ、翌17年1月書籍化されたものである。米英のアジア収奪の様、特に、英国のインド、中国に対する巧緻な策略が記されている。歴史書としても面白い。
アジアの国々、ヨーロッパ列強、特にイギリスの餌食になっていた。第一次世界大戦後からは、世界の強国はイギリスからアメリカへと変わる。日清、日露の両戦争で勝利をおさめた日本は、アジアの盟主となる。ヨーロッパ世界の代表であるアメリカと、アジア・東亜の代表である日本とは、ぶつからざるを得ない。大川周明は、そう考える。
何故か。欧米列強にほしいままにされているアジアの国々を、日本が解放してやるんだ、と考える。佐藤優は、大川周明の考えが合理的であり正しい、と言っている。だから、日本の行動は肯定できる、と。だが、そうか。
当時の日本の考えはこうだ。
欧米列強からアジアの国々を救い出す。それを担うのは日本である。しかし、日本には未だ十分な蓄えがない。力がない。その力をアジアの国々から得たい。一時的ではあるが、アジアのそれぞれの国を日本の統治下に置きたい。資源も含め。そして国力をつけた日本は、欧米列強をアジアから駆逐し、アジアの国々を解放する。日本が考えた構図である。
アジアの国々、こんなこと聞ける訳はない。イギリスも、アメリカも、日本も、みな同じじゃないか。他国への収奪に変わりはない。しかし、それが70年前に始まった戦争だった、と言えなくもない。いや、それどころか、たしかにそうだ。
こんなことを考えていると、ややこしくなる。もう終わりにしよう。これからは、どうなるのか。佐藤優、こういうことも書いている。
ただ一国のみ強国のアメリカ世界、ユダヤ・キリスト教の一神教、ギリシャ哲学、ローマ法の三原則が一体になった「コルプス・クリスチャヌム(キリスト教世界)のEU、急速に力をつけてきた中国世界、そして、アル・カイーダを先陣とするイスラームの世界、と。
面白いな、見たいよ、その鬩ぎあい。物理的には無理だろうが。しかし、こういうゴタゴタとしたこと大好きなんだ。大川周明も面白いが、顔を真っ赤にし、タコの八っつぁんみたいに手足をくねくねしている孫娘の動きも面白い。
日米戦を考え、孫のフワフワの手足の感触を確かめ、今後の世界の動きに思いを巡らす。どうなるのかな。