草間彌生(続きの続きの続き)。

好きなことをして飯を食っていくなんてこと、とても難しい。このこと、古今東西、変わらない。
絵描きなんて、その典型。如何に才能があろうとも。生涯、1枚の絵も売れなかった、というのは、ひとりゴッホに限らない。
しかし、稀にそうでない人がいる。草間彌生も、そのひとり。もちろん、草間には、才能の裏付けがある。草間の作品、どんどん売れる。そんなに売れて、どうするの、というぐらい。

この人、ロンドンの画商、ビクトリア・ミロ・ギャラリーの共同経営者。こう語っている。
アート作品、ビジネスの場では、商品だ。この人の横にある立体作品・・・

つまり、草間のこの花の立体、1体3000万だそうだ。

昨年だったか、今年であったか、世界最大のアートフェア、パリのFIACアートフェアが開かれる。
世界の主要な画商、これぞ、という作家の作品を持ちこむ。

ビクトリア・ミロ・ギャラリーのブースには、草間彌生の作品のみが5点出展される。
水玉が描かれたメタルのカボチャが5点。1点6000万円だ。
商品価格というもの、需給バランスによって決まる。どのような商品でも、同じこと。本来、ハイテクのかたまりであろう電化製品など、技術の進歩により、幾らでも生産される。価格は、どんどん下がる。
しかし、アート作品は、それらとは少し趣を異にする。コンベアでなく、手作業だ。量産がきかない。需給バランスがきかなくなる、ということが起こる。人気作家の場合には。今の草間もそれにあたる。
しかしそれでも、画商、価格設定には、気を遣っているようだ。ビジネスとしては、当然だ。
だが、それよりも、本来量産がきかないはずの作品が、同一ではないにしろ産み出されていることに、幾ばくかの違和感は感じる。いや、どのカボチャも面白いのではあるが。

この人は、コンテンポラリーアート・現代美術のコレクター。草間のこのカボチャを買おう、と思っている。
その前に、一応カミさんにもひと言聞いてから、と思っているが、カミさんも「いいよ」って言うと思うよ、と話していた。6000万程度は、気軽に使える人なんだろう。
おそらく、買ったに違いない。ビクトリア・ミロ・ギャラリーが、このアートフェアに展示した、1体6000万の草間のカボチャ、5体すべて、合計3億円、完売したそうだから。

昨年のニューヨークでのクリスティーズのオークション、草間彌生のこの作品がセリにかけられた。『No.G.A.White』。1960年の草間のネットペインティング。

落札価格は、290万ドル。今、ワシントンのナショナルギャラリーに掛かる。
競売にかけたのは、母親からこの絵を受け継いだアメリカの女性。母親が死に、相続税を払うため、家を売ろうか、草間の絵を売ろうか、と考えていたそうだ。で、結局、草間の絵を手放すことにし、クリスティーズに持ちこんだそうだ。この1点で、相続税が払えた。
この人、今、草間のこのネットペインティングがかかっていたところに、その複製をかけている、という。この絵と共に過ごせて、幸せであった、と語る。草間彌生も、このことを知ったら、幸せな思いがあろう。
なお、50年前、草間彌生がこの絵を手放した時の値段は、500ドルだったそうだ。500ドルが、290万ドル。それがアートの世界であり、それが草間彌生の世界。

おでこに赤い水玉をつけられて喜んでいる人は、ドイツの車メーカーの幹部。
草間彌生、化粧品、携帯電話、さまざまな企業とのコラボレーションをしている。制作のスタッフは何人もいるが、ビジネスをマネージメントするスタッフも、当然いるようだ。
草間彌生自身、その意識があるかどうかは解からぬが、ビジネスマシーンとなっていることは、否めない。永年の草間ファンとしては、気にかかる。