記憶。

大震災の後、ほとんどの日本人、義捐金を送った(だろう)。もちろん、外国の人も。
最初に10億を送ったユニクロの社長、今年の獲得賞金すべてを義捐金に、と言った石川遼。満を持してかどうか、少し遅れて100億+引退するまでの役員報酬の全額、と表明した孫正義。紙袋に1000万を入れて、手押し車を押してきた、という大阪のおばあちゃん。その他、さまざまな人がニュースになった。
私が、ホーと思った人が3人いる。
ひとりは、今では、そうは売れていないだろうに、ポンと5000万出した安室奈美恵。ハデな炊き出しと、街頭募金ばかりしている芸能人が多い中で、エライ。
2人目は、やはり、ポンと100万ドル(8000万)の巨人のラミレス。何日か前の新聞では、今、日本のプロ野球選手で年俸1億以上の選手が80人もいるらしい。外国人選手は除き。もちろん、大リーグの選手も除き。彼ら、どうした。今からでも遅くはない。頑張ってくれ。元より好きだが、ますますラミレスが好きになる。
あとひとりは、高橋克彦。高橋克彦が1000万、という記事を読んだ時には、ホーと思った。もっと超売れっ子作家も何人もいるだろうに、と思って。高橋克彦が、東北出身の浮世絵にも詳しい直木賞作家だということは、知っていた。しかし、高橋克彦の書、読んだことはなかった。
高橋に興味を覚え、図書館へ行って驚いた。高橋克彦の本、いっぱいある。超ではないのであろうが、売れっ子作家なのだ。そうとは、知らなかった。
「○○の記憶」という背が赤いのと、緑のと、青いのと、3冊読んだ。1991年から2000年にかけ、文藝春秋から刊行されている。いずれも、短編。記憶にまつわる少し怖い小説だ。
赤い背の本が、直木賞を取った『緋い記憶』が含まれているもの。7編が収められている。緑の背の本は、『前世の記憶』。8編を収載。青い背のものは、『蒼い記憶』。12編が収められている。すべての小説、いずれも、タイトルに”記憶”が付く。
主人公は、小説家や、雑誌の編集者、デザイナー、ラジオのパーソナリティー、広告代理店のやり手、大学の教員、といった如何にも、といった職種の男である。
舞台は、概ね東北。特に、盛岡。先般、津波で壊滅的な被害を受けた釜石も出てくる。初めて知ったが、高橋克彦、釜石で生れ、盛岡で育ったそうだ。
いずれも、不思議と言えば不思議な話。コンセプトは、一貫して”記憶”であるが、それが、怖い。おどろおどろしいものもある。
高橋克彦、『緋い記憶』の「あとがき」にこう書いている。
<しかし・・・・・この作品集はどういう分野に属するのだろう。テーマが浮き上がって見えるように恐怖を味付けにしているが、決して怖さを書こうとしたわけではない。単純に恐怖小説と括られるてしまうのは私の本意とは違う>、と。
そうは言っても、20何編の「○○の記憶」、怖い話ばかり。出てくる人やその舞台は、ごく普通であるのだが。
フト、思った。東北の、こういう不思議な怖い話、今(と言っても、2〜30年前であるが)の、『遠野物語』じゃないか、と。
先月末、東北新幹線は、全線回復した。花巻から遠野を通り、釜石までは行くことができるようだ。そこから気仙沼の方への電車は、津波で流されたが。
暫く前から、物見遊山でいいから東北へ来てくれ、と盛んに言われている。東北へ来て、飯を食ったり土産を買ったりしてくれ、と。それも、支援だ、と。
高橋克彦の書を読み、釜石へ行きたくなった。しかし、津波で流された釜石、泊まる宿はないだろうな。釜石から気仙沼へ行くことはできるのだろうか。バスでもあればいいが、どうかな。
寝袋は持ってないし、第一、そんなものがあっても、ヘナヘナの私の身体、野宿などはできないし。どうしようかな、と考えている。