ダブルAマイナス。

今日の中継の解説で、北の富士が面白いことを言っていた。白鵬の連勝記録について。
「68までは、いってほしいけどね」、と言い、続けて、「69連勝はねえー」、と言っていた。たしかに、北の富士ならずとも、この”ねえー”、という2文字か3文字の中に、多くの相撲ファンの気持ちが込められている。
今、双葉山の69連勝をリアルタイムで知っている人は、ほとんどいないだろう。しかし、リアルタイムでは知らなくても、相撲好きの心には、この記録は、別次元のもの、神聖にして犯すべからざるもの、というイメージがある。北の富士が思わず発した「ねえー」だ。
世に、相撲研究家といわれる人がいる。高永武敏もそのひとり。相撲に関する書を何冊も上梓しているようだが、『激動の相撲昭和史』(1990年、ベースボール・マガジン社刊)は凄い。高永武敏と原田宏の共著となっているが、高永があらかた書きあげたものを、その死により原田が後を引き継ぎ、昭和の相撲史を纏めたものだ。
20年前のものだから、貴乃花が大型力士相手に奮闘する、華々しい時代より前の、昭和相撲史である。だが、口絵の写真にも多くのページを割き、本文578ページという大部なもの。昭和の相撲史がこと細かく語られ、これでもか、と言わんばかりにさまざまなデータが記されている。
その中に、こういう記述がある。
<昭和の名横綱をあげると、戦前では玉錦、羽黒山、戦後なら栃錦、若乃花(初代)、大鵬、北の湖、千代の富士というところだろう>、という記述が。貴乃花や朝青龍はまだ表舞台に出る前だから、それはいい。しかし、アレッ、と思った。何か引っかかる。そう、双葉山が抜けているんだ。
そう思ったら、その後、なんと、こう書いているんだ。
<双葉山は比較にならないので別格となる。双葉山とは、相撲史上の名力士として第一人者の大横綱だから、だ>、と。そう、双葉山は、比較の対象外の存在なんだ。強い力士、大横綱は、何人もいるが、双葉山だけは、神聖不可侵の存在なんだ。
北の富士が思わず漏らした「ねえー」も、その深層心理に、このことが根付いているからに違いない。
その双葉山、どれほど強かったか、『激動の相撲昭和史』には、こうある。幕内通算勝率、80.2%。横綱での勝率、88.2%である。強い、凄い。角聖だ。
ついでに、大横綱といわれる人の幕内通算勝率と、横綱になった後の勝率を調べてみた。
大鵬、83.8%と85.8%。北の湖、76.5%と81.1%。千代の富士、76.1%と84.8%。貴乃花、76.4%と81.3%。朝青龍、79.6%と83.6%。これらの力士、さすが、というデータである。しかし、この中で、最も勝率の高い大鵬でさえ、双葉山のデータには及ばないことが解かる。少なくとも、負けない横綱と言われた、横綱になった後の全盛期の勝率では。
では、双葉山の連勝記録に迫る、白鵬の勝率はどうか。9月場所の中日、つまり、今日までの勝率を調べてみた。驚いた。白鵬のデータは、こうである。幕内通算勝率、82.6%、横綱になってからの勝率は、なんと、90.8%。横綱での勝率、ただひとり、9割を超えている。双葉山をも超えている。
もちろん、他の大横綱とは、その置かれている状況が違う。ひとり地を行く、一人横綱。ライバルがいないばかりか、追いかけてくる力士もいない。他の力士との力量差は、歴然。どうする。
で、信用格付けに倣い、大横綱の格付けをした。もちろん、私なりの格付けであるが。
双葉山は、もちろん、AAA、トリプルAだ。大鵬も、AAA、トリプルAとする。次いで、千代の富士と貴乃花を、AA+、ダブルAプラスとする。北の湖は、AA、ダブルA。
難しいのは朝青龍だ。AA、ダブルAとするか、AAー、ダブルAマイナスとするか、難しい。心情的には、ダブルAだが、世間的には、ダブルAマイナスかな、とも思う。だがしかし、ダブルAとしたい。ハハハ、朝青龍には甘いんだ、私は。
で、白鵬だ。白鵬の格付け、どうするか。幕内通算勝率では、大鵬に迫っている。横綱になってからの勝率では、双葉山をも凌駕し、ダントツの1位。それでどうする、格付けは。
私の白鵬に対する格付けは、今のところ、AAー、ダブルAマイナスとする。一昨日、自身の連勝記録に並ばれた時、九重(千代の富士)が、「”大”に近い横綱になってきた」、と言っていたことにもよるが、私から見ても、まだ大横綱とは言えない。しかし、間もなく大横綱になることは、間違いない。その時には、ダブルAプラスとしよう、と考えている。
しかし、白鵬は、トリプルAの力士になることは難しいであろう。ライバルがいないからだ。ひとり頭抜けただけでは、面白くない。このことは、白鵬にとっても、不幸なことである。巡り合わせが悪かった、というしかないが。